VRやARなどの技術が広く一般化し、3Dへの注目度がより一層高くなってきました。その影響はゲームや映画などのエンターテインメント作品にとどまらず、建築分野にまで波及してきています。
現在、『Autodesk Maya』や『Autodesk 3ds Max』などの3DCGモデルをデザインするツールがあるなかで、注目されている 『Unreal Engine』はどういうツールなのでしょうか。
建築分野での活用事例と合わせて、説明していきます。
目次
Unreal Engineとは?
『Unreal Engine』とは、Epic Games社が開発したゲームエンジンで、現在の3Dゲームを動かす際の必須ツールの1つです。Unreal Engineが必須ツールといわれている理由の1つが、プログラミングを行わずにゲーム制作ができる『ブループリント』という機能にあります。
ブループリントとは、「ビジュアル スクリプティング」というコードを書かずにプログラミングできる機能のことです。それにより、直感的にキャラクターやオブジェクトの動きに連動して効果音をつけることなどを、プログラミングせずに行うことが可能になりました。現在ではゲーム開発だけではなく、建物の設計、映画、アニメーションやテレビ番組の制作など、幅広い分野で活用されています。
製品リリースからしばらくの間は、月額のライセンス販売方式がとられていました。しかし、2015年に最新版の『Unreal Engine4(UE4)』を無償提供したことにより、 個人や小規模デベロッパーにも広まっていくきっかけとなりました。
最新バージョンの『Unreal Engine5(UE5)』のフルリリースも今後控えており、ゲーム以外の業界においてもますます注目を集めています。UE5では、リアルなライティングを実現する『グローバル イルミネーション』や『リアルタイム トレーシング』を利用することで、よりグラフィックのクオリティを上げることができます。
Unreal Engineのメリット
Unreal Engineを使用するうえでのメリットを、「コスト」と「レンダリング」の2つに切り分けて説明していきます。
コスト
前項でも軽く触れましたが、2015年のUE4のリリース以降は無償で提供されています。その代わりに、開発したゲームの売上が年間で100万ドル(約1億円)を超えるケースのみ、売上の5%を使用料として支払う必要があります。つまり、ゲーム開発として使用しない場合は、一貫して無料で使うことができるという訳です。
レンダリング
Unreal Engineの特徴の1つに、『リアルタイム レンダリング』があります。
リアルタイム レンダリングとは、コンピュータでリアルタイムに計算を行い、その場で瞬時に映像として出力、つまりレンダリングすることを指します。つまり、事前に映像を計算してレンダリングする『プリレンダリング』とは違い、レンダリングが完了するまで待つ必要がありません。この機能はゲーム制作だけでなく、建築3DCGの現場でも活用されています。毎回時間をかけてレンダリングして確認していた作業をリアルタイムに行えるため、作業効率は飛躍的に向上しています。
その一方で、レンダリングするまでの計算時間に余裕がないため、基本的には複雑な光や物理シミュレーションの計算には向いていません。また、レンダリングに使用するコンピュータの処理能力が足りていない場合に映像出力が間に合わなかったり、描画が遅れてしまうというデメリットもあります。
Unreal EngineとUnity
建築3DCGの現場でのUnreal Engineの活用を紹介する前に、ゲームエンジンとして知られている『Unity』との違いについて軽く触れていきます。
まず簡単にUnityの説明ですが、Unityはユニティ・テクノロジーズ社が提供するゲーム開発プラットフォームです。一般的に3Dゲーム開発ソフトとして知られていますが、2Dゲーム開発にも対応しています。
では、Unreal EngineとUnityの違いをみていきましょう。
Unreal EngineにおけるUnityとの最大の違い(メリット)は、感覚的なプログラミング操作にあります。Unreal Engineのブループリント機能を使うことで、プログラムの知識が無くても感覚的に操作することができます。
その一方で、Unityは、ゲームエンジンとして現在世界で一番使われているソフトということもあり、資料や情報は豊富です。インターネットで様々な情報を検索しながら作業することも多い3DCG制作において、情報量の少なさはデメリットといえます。その点でいうと、Unreal EngineはUnityに比べ、情報量や学習コンテンツがまだ少なく、ソフト自体の難易度は高いといえるでしょう。
建築分野での活躍が期待されているUnreal Engineですが、Unityも『Unity Reflect』や『VisualLive』などのBIMデータを活用できるソフトを開発しています。建築業界でも活用できるという点では、Unreal Engineと同様といえるでしょう。
さて、Unreal Engineに、もう一度話を戻します。
Unreal Engineで再現できるBIM
『Unreal Studio』というソフトをインストールすることで、BIMデータをUnreal Engineへ取り込み、ARやVRで建築モデルを体験することができます。
では、なぜ建築分野のソフトではなく、ゲームエンジンが利用されているのでしょうか?
そもそもBIMやCADは、サクサクと動かせることを前提としていないうえに、データも網羅的です。そのため、リアルタイムな情報生成を実現するためには動作が重すぎてしまうのです。その一方で、ゲームエンジンの場合は、全体を制御するメタAIやキャラクターAIが、ゲーム内の環境を読みとって動かす処理を実現しています。
また、Unreal EngineとBIMの組み合わせで注目したいのが、BIMデータをベースにVRコンテンツを作るという手法です。
これから家を建てる顧客に対して、完成イメージの家をVRで事前に見せたり、着工前に工事関係者にVRで見せることで、問題点を事前に可視化できるなどの活用が期待されています。その結果、設計者から施行者、顧客間でのコミュニケーションの行き違いを減らすことができます。
こちらは一つの参考元のデータとして、Unreal Engine社のWebサイトにて取り上げられているZuru Tech社の活用例です。
Zuru Tech は、世界初のデジタル建築システム『Zuru Home アプリ』を開発しました。
建物を設計、建設するためのリアルタイムBIMアプリであり、建物の特別注文を申し込めるようにするアプリになります。注文を受けて建物が製造され、現場に届けられるまで、超高速で組み立てることを可能した、革新的なアプリの紹介例となります。
しかし、BIMのデータを全てゲームエンジンに取り込むことは簡単ではありません。BIMには、構造や設備、素材や型番といった目に見えない属性データが含まれています。本来のゲームエンジンには必要のないメタ要素のため、どのように3Dモデルに反映させていくのかを試行していく必要があります。また、BIMやCADにも含まれていない道路や広場などのデータを、どのようにして複合的にゲームエンジンに取り込んでいくのかという課題も残っています。
Unreal Engineの活用事例
建築インテリアレンダリング サンプルプロジェクト
Unreal Engineが公式でリリースしているプロジェクトですが、建築分野に関わっているため1つの事例として紹介していきます。
この『建築インテリアレンダリング サンプルプロジェクト』では、アパートメントの小さな一室のシーンをサンプルとして、3DCGの観点から様々なオブジェクトを調べることができます。セットされているものをテクニックとして学び、自分の作品のために再利用することもできます。
またレイトレーシング機能によってリアリティを高める方法を模索する際にも、このサンプルは活用できます。ガラスや金属製品の表面同士での相互反射の表現や、動的なソフトシャドウの作成にも役立ちます。Unreal Engineでレイトレーシング機能を使用するには、レイトレーシング対応のグラフィックスカードが搭載されている一定以上のPCスペックが必要です。また、Unreal Engineは常に最新のバージョンを使用するよう心がけてください。
Twinmotion
次に、事例ではなく、Unreal Engineを建築分野においても活用するためのツールとして、『Twinmotion』を紹介します。
Twinmotionとは、Unreal Engineをベースとした3Dビジュアライゼーションのためのツールです。設計データをもとにして、ハイクオリティな映像、パノラマやVRビデオなどを素早く簡単に作成できるようになります。このツールは、建築、建設、都市計画や造園向け用途に特化して設計されています。
Twinmotionは、すべての主要なCAD、BIM、モデリングソリューションのファイルをサポートしており、『SketchUp Pro』、『ARCHICAD』、『Revit』や『Rhino』とワンクリックで簡単に同期することができます。Twinmotionの高度な挙動やアニメーション、最高レベルのレンダリング機能を活用し、Unreal Engineをさらに洗練されたものにすることができます。
隈研吾建築都市設計事務所のLIXILギャラリー
引用元:LIXIL GALLERY『Multiplication』
『隈研吾建築都市設計事務所』と 『ヒストリア・エンタープライズ』がUnreal Engineを使ってバーチャルギャラリーを共同で制作した、『Multiplication』の事例を紹介します。
第23回クリエイションの未来展のプロジェクトとして、隈研吾氏監修の企画『Multiplication』が、LIXILギャラリー公式サイトにて2020年8月8日(土)から2020年9月30日(水)の期間に開催されました。本展ではUnreal Engineを使い、東京に実在するLIXILギャラリーが3DCGモデルで表現されました。
ヒストリア・エンタープライズは、Unreal Engineの『リアルタイムグラフィック』の技術を用いて、隈研吾氏の建築作品を体感できる世界をオンライン上に構築しました。また、建築作品と対となる抽象空間を用意することで、3DCGモデルの配置や分解、再構築をプログラムにより実現し、デジタル作品ならではの世界観が表現されました。
Unreal Engineの今後
冒頭にも説明した通り、2022年には『Unreal Engine5(UE5)』のフルリリースも控えており、今後も多岐にわたる分野で活躍していくのは明らかです。現在では、レンダリングの精度などの観点から、Unreal Engineのみでの建築3Dビジュアライゼーションは難しいといえます。しかし、バージョンアップによってリアルタイムレンダリングのクオリティが今後上がっていくことは十分に期待できます。そのため、建築3Dパースや建築3DCGモデルに興味がある方は、この機会にUnreal Engineに触れてみてはいかがしょうか。