二番目に登壇したのは、株式会社竹中工務店の山口大地氏。『今、求められているビジュアライゼーション』と題して、建築の魅力を高め深める新しい職能について語られた。
現在、竹中工務店の大阪本店設計部スペースデザイン部門ビジュアライゼーショングループに籍を置く山口氏。大学院で6年間、建築意匠設計を学んでいたが、ビジュアライゼーションに興味を持ったことで、さらにアートディレクションの専門学校でデザイン思考について学び、ブランディングデザインを実践していったという。
「担当業務は、静止画、アニメーション、映像編集、VRなどのCG制作です。モデリングからレタッチまで一人で最後までこなすという、いわゆる“何でも屋”ですね。使用しているCGソフトとしては、3ds Max、V-Ray、ムービーとしてはAdobe Premiere+After Effects、VR制作にはゲームエンジンであるUnityや、3D CADをVR化できるSYMMETRY alphaを使っています。学生で学んだことは建築設計やアートディレクションですが、社会人からでは建築ビジュアライゼーションを選びました。理由は、建築ビジュアライゼーション業界はクリエイティブで可能性がある領域だと思ったからと、映画やゲームなど、さまざまな分野から建築ビジュアライゼーションへ応用していけるのではないかと考えたからです。なによりも、美しい作品が制作できるというところも気に入りましたね」
自己紹介の後、山口氏が実際に制作した建築パースの紹介がなされた。
建築ビジュアライゼーションがもたらす効果
山口氏は、建築ビジュアライゼーションという新しい職能(あるいはスタンス)により、以下のような良い効果をもたらされたという。
・プロジェクトチームのモチベーションが上がる。
・設計行為が加速する=ドライブする。
・合意形成がはかどり、コンペ勝率が格段に上がる。
・感謝され、次の仕事へのリピート率が非常に高まる。
その結果、2016年から2017年は、仕事へのリピート率が160%も向上、2017年から2018年7月現在でみてもリピート率が110%も上がっているという。また、これらの効果から、竹中工務店のブランディングを図っていこうという「ブランディングチーム」が結成され、山口氏はビジュアル制作担当として所属しているそうだ。
また、3年後の組織計画や具体的施策(マネジメント、クオリティ、新規外注等)を作成し、さらにその先の未来計画、ビジョンの提示を目的とした「VIZ(ビジュアライゼーション)グループの将来を考える会」が結成され、山口氏はそのリーダーに抜擢されている。
「このような状況の下、『これからのビジュアライゼーションがどうなっていくのか』についてお話しさせていただきます。手描きパースからCGパースへという流れがあるように、今の建築ビジュアライゼーション業界にも変化が求められています。それを理解していないとその先に進められないと考えていますので、この後はそこにフォーカスを当てて紹介していきます」
建築ビズ業界の新しさとは
新しい職能の「新しい」とはどういうことかというと、一つはスティーブ・ジョブズが起こしたような「破壊的なイノベーション」だ。すなわち、これまでとはまったく異なる技術を持ち込んでくるようなことを指している。
もう一つは「これまでに目にしたことはあるけれど、別物に見える」というもの。これを「未知化」と呼んでいるが、これがもう一つの新しさ。世の中のほとんどは「未知化」による新しさが多いという。
これらの生み出し方はシンプルで、既存のものと既存のものとの組み合わせで生まれる。今回の登壇内容は後者であり、歴史の延長線上にあるということを認識しておいてもらい、温故知新のスタンスで見てもらえればと山口氏は話す。
「『新しいことなんて考える必要があるの?』という方もいらっしゃると思います。しかし、少し考えてほしいのが、いつからパースを建築ビジュアライゼーションと呼ぶようになったのかということ。あえて呼び名を分けているからには、パースとビジュアライゼーションは違うものです。(新しい呼び名が存在する以上、なぜそれが生まれたかを考えなければいけません。)そこで私なりに両者を定義してみました」
山口氏は建築パースと建築ビジュアライゼーションを以下のように定義している。
・建築パースは、2次元(図面)の3次元化し視覚化したもの
・建築ビジュアライゼーションは、クライアントへのメッセージを視覚化したもの
「ビジュアル全体を氷山に捉えてみると、氷山の一角と言われる光を浴びた部分が建築ビジュアライゼーションであり、その下の大部分が建築パースとなります。実際のところ、皆さんの仕事の割合は氷山のように、水面の上に出ている建築ビジュアライゼーションが1だとしたら、水面下の建築パースが9という割合になるかと思います。私の仕事が増えた大きな理由として、この比率が逆転したことにあります。今後、建築ビジュアライゼーションの割合が増えていけば、業界も盛り上がっていくでしょうし憧れの対象として魅力的なものになるだろうと考えています」
そこで山口氏は、建築ビジュアライゼーションを創り出す新しい職能を「ビジュアルアーキテクト」と呼んでいる。それに対し、従来までの建築パースを制作する職能をあえて「ビジュアルオペレーター」としている。これからは「ビジュアルオペレーター」ではなく、「ビジュアルアーキテクト」がより一層求められていくだろうと山口氏は話す。
ビジュアルアーキテクトとビジュアルオペレーターとの違い
「ビジュアルオペレーターというのは、建築業界で2つの大きな変化が起きたことにより発生した職能です。その変化の一つはコンピューテーショナルデザインと呼ばれる領域が発展したことです。設計業界には、ライノセラスをはじめとしたパラメトリックに値を変化させ複雑な形態をデザインする流れがあり、設計者自身やそのソフトの専門家がモデリングを担うようになってきました。もう一つはBIMです。これからはBIMの流れが主流になってくるのは言うまでもありませんが、実際当社設計部でもBIMによるモデリングが進んでおり、BIM化の目標値は100%です」
このような流れが加速した理由は2次元と3次元(図面と3Dモデル)を同時に作成できるソフトが発展してきたためだ。さらに、作図ソフトにレンダラーが搭載されてきたので、ある程度のパースであれば簡単にアウトプットできるようになってきたのも理由だ。つまり、CADオペレーターが図面を作成して、さらに建築パースも作成する流れが生まれてきたという。そうなると建築パースを生業としているのがパース屋だけはなくなり、かつパース屋の特権ではなくなってきたという意味で、あえて新しく「ビジュアルオペレーター」と呼ぶのである。
「次にビジュアルアーキテクトという職能です。最近では、なんらかのメッセージを持った美しいパースを目にすることが増えています。しかも、建築そのものを描いているというよりも別のなにかを描いているような気がしてなりません。今の建築家にはこのようなパースが求められており、それが私の定義する建築ビジュアライゼーションだと思っています」
アーキテクトが建築を設計するように、CG空間内に空間・建築・世界を設計し、より情緒的で、より美しい世界を表現する職能がビジュアルアーキテクトなのである。つまり、クライントが実現したい世界を、メッセージとして視覚化する職能である。この職能では、絵作りに集中でき、本来のアーティストとしての職能をまっとうできるわけだ。「大変なときもありますが、クリエイティブでとても面白く、やりがいを感じられる職能です」と山口氏はいう。
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