ビジュアルアーキテクトとビジュアルオペレーターの制作への取り組み方の違いは、以下のようになる。
1.見据えるターゲットが違う
2.求められるものが違う
3.視覚化する対象が違う
「そもそも建築ビジュアライゼーションというのは、コンテンツビジネスというジャンルに含まれています。これらのコンテンツビジネスは、目的があって成立する『目的芸術』に含まれます。しかも、ただ目的を満たしていれば良いわけではなく、そこには必ず芸術的な美しさが含まれているという意味で目的芸術と呼ばれています。建築ビジュアライゼーションもここに含まれています。また、建築ビジュアライゼーションは、クライアントを見据えてコミュニケーションを触発するビジュアル制作です。クライアントのビジョンや実現したいメッセージを伝えたいとき、そしてクライアントを一気に味方へと引き込みたいときに、もの凄い効果を発揮するのが建築ビジュアライゼーションなのです」
建築ビジュアライゼーションを実現するコツとして「問診」が挙げられた。医師が患者を診察するときのように、「クライアントが何を実現したいのか?」「設計者がそれを受けてどんな回答を出したのか?」などがわかるまでひたすら質問して、言われたことだけを描かないことが大事だという。
ここで、ある事例が紹介された。
「これだけでもパースとしては成立しているので、このまま絵作りをしていけばそれで良いわけです。しかし、これではまだメッセージとしては弱いですね。そこで、どうすれば設計者とクライアントとのコミュニケーションを促していけるビジュアルに変えていけるのかということを考え、次のようなメッセージを入れてみました」
「簡単なことですが、バードウォッチングしている人たちを加えたのです。こうすることにより、絵にストーリーが生まれるわけです。森と近いからこそできる体験であり、『右側のスペースでバードウォッチング講座を開けますよ』というソフトの提案まで可能となります。実際、この1枚でコミュニケーションがかなり広がったと聞いています」
魔法が求められるビジュアルアーキテクト
ビジュアルアーキテクトとビジュアルオペレーターとでは求められているものも違う。ビジュアルオペレーター、つまり建築パースを制作する人へ一番求められるのが「対応力の良さ」「制作スピード」「従順さ・忍耐力」だ。その結果、修正の嵐が発生することになる。
「下手したら、1案件で何十枚、何百枚も修正させられることもあります。そうなったときには皆、ダークサイドへと落ちていきます(苦笑)」
反面、ビジュアルアーキテクトには、まるで魔法をかけて出来上がったようなハイクオリティのビジュアルが求められる。ただし、一度その魔法が成功すればビジュアルアーキテクトの価値はうなぎ登りに高まるので依頼が殺到するという。しかしそこには高打率を続けていく使命が負わされている。
「そのコツは3つあります。その一つ目は、『初稿(=第一印象)が大事』だということ。魔法をかける準備として、設計者を安心させることが必要となります。そのためには、最初に世界観の方向性や雰囲気がわかるところまで作り込んでしまいましょう。結局は見た目で判断されるのがビジュアル制作の世界です。一発目でいい感じのビジュアルを見せ、クライアントを魅了させてしまうことが肝心です」
コツの二つ目としては、「2つの!が大事」だと山口氏は話す。2つの!とは、「Surprise!」と「Make sense!」であり、驚かせて腑に落とさせることが大事だということだ。「この2つの!を意識していると、確実に一発目で魔法にかけられます。ただし、ファンタジーだと言われないよう、腑に落ちるような理由を考えておくことが大切です」
コツの三つ目は、「マットペイント」だという。「映画の背景を制作するように、鑑賞者をその世界に引き込んでいきます。この世に存在するあらゆる素材を駆使して、独自の世界を作り込んでいくわけです」
参考のテイストを真似るのはNG
ビジュアルアーキテクトとビジュアルオペレーターの話に戻る。両者の「視覚化する対象が違う」という違いについて、ビジュアルアーキテクトはクライアントへのメッセージを視覚化するのに対し、ビジュアルオペレーターは図面(2次元)の3次元化にあるという。
「そのために、建築は地球の上に成り立つという地球・宇宙の法則に従うことが大事です。独りよがりの表現をしてファンタジーにならないよう意識しましょう」
そのほかのコツとして、「参考通りはNG」が挙げられた。参考のテイストを真似るのはできるだけ避けるべきだと山口氏は話す。その理由はシンプルで、メッセージのオリジナリティを追求しないと、そのメッセージ性は確実に弱くなるからだ。
「参考にどんなメッセージがあるかを話し合うことが必要です。その際、参考と案件の内容がズレている場合が多々あります。問診をすることで間違った方向(=誤診)につながることはしっかり取り除いていきましょう。実際、私が良く体験したことですが、『参考』通りのビジュアルを提出すると、伝えたい意図と違ったということがよくありました」
最後に山口氏はまとめとして次のように語り、本MeetUpが終了した。
「ビジュアルアーキテクトが増えることで良い建築が増えます。つまり、世の中に良いビジュアルが増えれば増えるだけ、良い建築が増え、社会が豊かになることに繋がっていきます。それは社会が豊かになることであり、私たち一人ひとりの幸せに繋がっていくといっても過言ではないでしょう!」
活発な意見交換がなされた懇親会も開催
3ds Max&V-ray Next製品紹介の第一部に続いて開催された、株式会社スタジオ・デジタルプラスの大橋ユキコ氏と、株式会社竹中工務店の山口大地氏による第二部のMeetUp。これらの第一部、第二部に続いて、登壇者2名とイベント参加者、そして株式会社Tooデジタルメディアシステム部スタッフによる懇親会が開催された。
参加者やオートデスク社から提供されたレアアイテム(ノベルティ)を勝者が獲得できる「じゃんけん大会」などもあり、和やかな雰囲気で6時間半におよぶ本イベントが閉幕した。
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