ビジュアライゼーションとは?
そもそもビジュアライゼーションとは、日本語に訳すと「可視化する」こと。数字や言葉で表現されている情報を、受け手が理解しやすいようにビジュアルにするということで、ビジュアライゼーションには建築CGだけではなく、インフォグラフィックも含まれます。
言葉だけでのコミュニケーションでは人によって解釈が異なったり、頭に思い浮かべるイメージが人それぞれになるので、ビジネスの場のやりとりでは齟齬を来たすケースがあります。そこで伝えたい情報をビジュアル化をして資料を示すことができれば、ブレることなく情報が伝わり、速く意思疎通ができるようになります。
建築業界では、ビジュアライゼーションという言葉自体は使われてはいませんが、建築物を手書きのパースとして描くことはCGが普及する前から行われていました。
建物を建てる際には、
・建物のオーナーとなる施工主
・どんな建物を建てるか設計する設計士
・工事を行う建設会社
と、おおまかにいってこの三者の意思疎通が必要になります。
建築プロジェクトが立ち上がるときには、設計士の頭の中に建物はありますが、それを表現するのは平面で描かれた「図面」。当然のことながら、設計のプロではない施工主が図面を見ても、どんな建物になるのかイメージをするのは難しい。それを解決するために、図面を元に立体化したパースを描き、設計士・施工主・施工会社の3者間で、建物の完成イメージを共有するのです。
そして、CGが2000年代から建築の分野でも利用され始めます。それまで手書きで描かれていたパースが、3DCGによって描かれ始めました。
建築CGパースの作り方
このように、パースが建築ビジュアライゼーションの始まりと言えます。
ここからは、どのような流れで建築パースが作られるかをみてみましょう。
使用するソフトウェアとしては、2000年代から、Autodesk社の3ds Max が不動の地位を占めています。Autodesk社はCAD CG ソフト業界の大手で、3ds Maxは映画製作やゲーム開発の現場でも使われている3D アニメーション用のソフトです。
Step 1 – モデリング
CAD(AutoCADやJWCADなど)ソフトを使って描いた図面データを3ds Maxに取り込んで「モデリング」を行います。モデリングとは、コンピュータの中で図面を元に立体可し、仮想で建物を建てていくような作業です。コンピュータの中で、立方体を立てていって“ハリボテ”状の建物をつくります。
Step 2 – テクスチャー制作・マッピング
次に面に対して建築素材のテクスチャーを貼っていきます。タイル等の建材のテクスチャーも自分たちでつくります。設計士と打ち合わせをしてどのようなテクスチャーを使うかを聞き、タイルメーカーから実物を取り寄せて写真を撮って作ったりします。
Step 3 – カメラとアングル設定
出来上がったモデルにカメラを置いて視点を決めます。設計士がデザインした建物を一番魅力的に魅せるにはどの場面を、どの目線で切り取るのが一番よいかをイメージしながら、カメラを置いていきます。
Step 4 – ライティング〜レンダリング
次に「ライティング」を行い、最後に「レンダリング」をします。レンダリングとは、モデリングデータから一枚絵を書き出す作業で、リアルで精細な絵を描き出すためには、このレンダリング作業が良し悪しを決めます。以前は1枚のレンダリングイメージを作るために数時間もかかっていましたが、マシン性能も上がり、数時間で仕上がるようになりました。
レンダリング専用のソフトウェアはまた別にあり、「レンダラー」と呼ばれています。2003年頃にV-rayというレンダラーが出たことで3ds Maxも一気に普及し、建築CGパース業界が発展したと言われています。
Step 5 – レタッチ・仕上げ
レンダリングをして終わりではありません。レンダラーの進化によってリアルなCGが描かれるようになりましたが、写真のレタッチと同じで、最終的な仕上げ作業が必要となる場合が通常です。
より美しく見えるように、色や彩度の調整をAdobe PhotoShopを使って行います。光彩を描き加えたり、ガラスの反射などもマスクをきって重ね、透明感を感じさせるよう美しく仕上げるなどといった職人技的な工程です。この「レタッチ」で、最終成果物の雰囲気がまるっきり変わってきます。
この一連の流れは、Kvizのチュートリアル「やさしい3ds Max -はじめての建築CG-」で詳しく学ぶことができます。これからチャレンジしてみたい人は是非ご覧ください。
建築ビジュアライゼーションの仕事の楽しさとやりがいとは?
経歴の長い建築CGクリエイターに聞くと、仕事のやりがいは「まだ世の中にないモノを描く楽しさ」にあるといいます。世の中にまだないものを描いたCGパースが、本当にその通りに完成したときの、感動と達成感は格別だと。そのためには、パースを美しく描く力量が重要です。
1)アングル
カメラをどこに置いて、立体の建物をどう切り取るか
2)構図や見せ方
建物のかたちをきれいに見せるなら広角を使うとか、広告物の一面に大きく使うなら緑の木々越しに見上げるほうが映える、エントランスの意匠はアイレベルで切り取る等
3)情景
早朝のイメージか、トワイライトのイメージかなど、時間帯の違うイメージをつくる等
これら3つの組み合わせで、できあがる絵には無数のバリエーションができます。この建物の魅力を伝えるなら、どれがベストかと考えたりするのは建築CGクリエーターです。そんな“伝えたいツボ”が人によって異なり、クリエイターの個性となって表れます。ちょうど、高性能なカメラを同じように持っていても、プロカメラマンと素人が撮るのでは写真が全然違っているのと同じです。
どのように見せてあげれば、その建物がカッコよくなるかを考えながら描いたシーンが、お客様に驚かれたり、喜ばれたりすることが仕事のやりがいにつながっています。また、納品したパースによって、その建築プロジェクトに関わる人たちの意識が一体化し、プロジェクトが一気に加速するという場面にも出合うことができます。その意味で、建築業界にもはや欠かせなくなっているのがこの仕事であり、建築ビジュアライゼーションの力でしょう。
建築ビジュアライゼーションの未来
ここまで、建築ビジュアライゼーションの中でもCGパースの説明をしてきましたが、建築用のCGアニメーションもCGパースと同様に、建築プレゼンやマンションの販売の現場でも使われています。
そして、現在は「建築VR」が台頭しつつあります。Oculus Riftや htc VIVE などのヘッドマウントディスプレイを使い、CGで作った建築物の中をあたかも実際にそこにいるかのように体験することができるようになりました。
その用途は、従来の建物の完成形を描いて伝えるものだけでなく、より「体験」をさせるものへ変化をしています。
たとえば、(株)積木制作は、ゼネコンに対して建設現場での安全教育や、一般企業向けの社内トレーニングなど、VRを使った研修分野で活躍しています。
積木製作が建設現場の安全意識を VR 体験で向上
建設中のビルから落ちるVRを体験などしたら、きっと強烈に記憶に残るでしょうね。VRはさまざまな新しい市場が考えられ、今後伸びていく分野だと思います。
このようにパース、アニメーション、VRとジャンルが広がっており、高い発展性と将来性があるのが「建築ビジュアライゼーション」です。
最後にもうひとつ。CGの制作方法は世界共通なので、グローバルな市場を相手に仕事をすることも可能です。このサイトを訪れたみなさんにも、ぜひ建築ビジュアライゼーションの世界に興味を持っていただけたら幸いです。