建築業界における図面の制作において、「BIM」と「CAD」の2つがよく知られています。最近では日本でも建築BIMの導入が推進されていることもあり、建築BIMという言葉を見る機会も増えてきました。
では、建築BIMとCADには一体どのような違いがあるのでしょうか?本記事では、それぞれの相違点から建築BIM導入におけるメリットまで紹介していきます。
※この記事は、国土交通省『建築BIM加速化事業について』に関する資料を元に編集・作成しております。
目次
建築BIMとは
最初に、建築BIMについて説明します。建築BIMとは、国土交通省が2019年に発表した「建築BIM推進会議」と、2022年創設の「建築BIM加速化事業」において使われた名称です。そのため、建築BIMとBIMに用語的な違いはありません。
BIMとは、「Building Information Modeling(ビルディング インフォメーション モデリング)」の略称です。BIMは、コンピュータ上に作成した3DCGのデジタルモデルに、コストや仕上げ、管理情報などの属性データを3DCGの建築物のデータ上に反映させる技術です。建築の設計や施工、維持管理まで、あらゆる工程に必要な情報活用を行うためのソリューションであり、建築分野における新しい技術として注目されています。
BIMについては、より詳しくこちらの記事にて解説しています。
CADとは
CADとは、「Computer Aided Design(コンピュータ エイデッド デザイン)」の略称です。「コンピュータ支援設計」という意味で、コンピュータで設計ができるツールのことを指します。簡単に言うと、設計現場で手書きで作っていた図面をコンピュータ上で再現したもののことです。
また、CADには大きく分けて「2DCAD」と「3DCAD」があります。2DCADはその名の通り、2Dデータの図面を作成するCADのことです。従来紙で行っていた製図をコンピュータ上で行うため、簡単に修正や書き直しができるというメリットがあります。
一方で、3DCADは3Dデータの作成を行うCADのことを指します。2Dで行っていた図面作成をコンピュータ上で3D空間で表現し、立体的に構築していきます。施工前に3Dモデルで建築物を見ることができるため、具体的にイメージしやすいというメリットがあります。
また、3DCADは作成した3Dモデルから必要な視点の図面(平面図や断面図など)を2Dで切り出すことができるため、2DCADの機能を内包していると言えます。
建築BIMとCADの相違点
まずは簡単に前提から説明します。1963年に誕生したCADに対してBIMの誕生は2007年であり、その歴史には40年以上もの差があります。そのため、「BIMの方が新しい技術である」ということは頭に入れておいてください。
2DCADとBIMには、上の画像の通りいくつかの相違点があります。ここでは、「設計」、「施工」、「維持管理」の3点に分けて、それぞれの段階での違いを説明します。
設計
2DCADでは、各種図面を個別に作図し、仕様は別の図書で管理しています。そのため、変更反映や整合確認で手間が発生しています。一方BIMでは、データを一元化することで不整合の無い図面・集計表の出力が可能です。そのため、2DCADで発生していた図面などの更新に関する手間を削減することができます。
また、面積算定などの自動化による設計作業の効率化、空間の可視化やシミュレーションによる合意形成の早期化などもBIMの特徴として挙げられます。
施工
2DCADの場合は、完成した設計図をもとに再作図が必要なため二度手間になってしまいます。BIMの場合は設計情報と連携した施工図・製作図の作成ができるため、2DCADで発生する二度手間が無くなり、手戻りを大幅に削減することができます。また、BIMと連動したデジタル工作機械や施工ロボットを活用することで、施工の効率化も図ることができます。
維持管理
2DCADでの各種記録は、それぞれを個別に作成・管理しています。そのため、履歴管理などの業務において手間が大きくなってしまいます。一方で、BIMでは維持管理情報をリアルタイムに集約管理することができるため、手間を大きく削減できます。
2DCADと3DCADの違いについて
BIMに市場が転換されていく前に、3DCADが注目を集めたときもありました。建築業界でも以前は2DCADが主流でしたが、その後3DCADが開発されたことで同じCADデータということもあり扱われやすく、導入企業が一気に拡大しました。
2DCADは平面上の図面作成となるため、初期段階の設計図を試作するツールとして活用されていましたが、3DCADは立体上の図面作成として、体積や質量、表面積や重心など細かいデータも再現が可能となりました。完成形に近い形状確認が可能となったため、設計検証ツールとしての活用が普及のきっかけになった経緯があります。現在は、BIMの普及に伴い、徐々にその役割ごと移行がされていっています。
建築BIMのメリット
建築BIMの導入には、さまざまなメリットがあります。施工前の段階で役に立つイメージがありますが、施工後の運用の効率化や高度化にも効果を発揮します。ここでは、それぞれのフェーズごとに分けてメリットを紹介します。
設計・施工|生産性の向上と質の向上
建築の生産現場における設計・施工段階では、生産性の向上と質の向上がメリットとして挙げられます。デジタルデータを活かしたシミュレーション・3DCGなどの活用により、設計・施工の手間を削減できます。3DCG・XRを活用した合意形成の円滑化により、調整期間の短縮と手戻りの抑制も可能です。
また、シミュレーション・プログラム処理などによる設計の最適化もメリットの1つです。
維持管理・運用|生産性の向上と運用の高度化
データやユーザーの面から見ても、維持管理・運用の際の生産性の向上や運用の高度化が期待できます。維持管理BIMデータを用いたファシリティマネジメントの効率化・高度化による不動産価値の最適化などが例に挙げられます。
ファシリティマネジメントとは、「企業・団体等が組織活動のために、施設とその環境を総合的に企画、管理、活用する経営活動」のことです。言い換えると、「設備や施設の使い方を見直すことで経営活動を円滑に進める管理方法」ということになります。その面においても、建築BIMの活躍が期待されています。
PLATEAUとの連携|利便性の向上
PLATEAU(プラトー)とは、国土交通省が進める3D都市モデル整備のためのリーディングプロジェクトです。都市活動のためのプラットフォームとしてオープンデータを公開することで、誰もが都市データを自由に利用できる様にすることを目指しています。すでに、一部のビジュアライゼーション化した3D都市モデルのオープンデータは、国土交通省によって開示されています。
そのPLATEAU上にBIMデータを連携することによって、現実の建築物でのサービスの享受ができるなど、さまざまなメリットがあります。
オープンイノベーション(DX)|ビジネスの創出
建築BIMが持つデータを連携することや、そのビッグデータを活用することで、新たなサービスや産業を創出することも期待されています。現在は建築・土木業界での注目度が高いBIMですが、今後業界の枠を超えて、新しいビジネスの創出のきっかけになることもメリットの1つとして期待されています。
日本における建築BIMの今後
諸外国では主流になりつつある建築BIMですが、日本では普及率に伸び悩んでいるという現実があります。その背景には、大きく分けて「コスト面」と「技術面」の2つがありました。そういった状況下で、最初にも紹介した通り、日本では国土交通省が様々な施策でBIMが日本で広がるように推進しています。「建築BIM加速化事業」を活用することで、コスト面と技術面の問題は解決できます。
コスト面においては、補助対象になるソフトウェアは一部ですが、BIMライセンス費などが支援されます。技術面においても、BIMコーディネーター等費として「BIM講習に要する委託費・人件費・諸経費」が支援されます。
導入の障壁だったこの2つが解消されることで、日本でもBIMが加速度的に広がっていくことが考えられます。諸外国のようにBIMの利用が一般的になる日も、そう遠くない未来に訪れることでしょう。