2021年10月に開催しました「建築ビジュアライゼーションMeetUp Online 第一弾」。
建築設計事務所・デザイン事務所・学生など、CGによるビジュアライゼーション制作をはじめてみたい方やCG制作に携わる方々に、有意義な交流の場をご提供するイベントとして開催していた「建築ビジュアライゼーションMeetUp」がバージョンアップしオンラインで戻ってきました。
第一線で活躍されている制作会社・クリエイターの方々にご登壇いただき、CGやデジタルによるパース制作・VR制作・動画制作など具体例を交えながら語っていただきます。
オンラインでの記念すべき第1回目は、スピーカーに株式会社日建設計様、株式会社日建スペースデザイン様をお迎えし、ビジュアライゼーション専門家集団の皆さんの建築ビジュアライゼーションの取り組みの紹介、実際の作品における空間、線、光にまつわるストーリーを、ツールを絡めながら語っていただきます。
どうぞ、当日の映像もあわせてご覧ください!
- Vol.1『The Share ビジュアル制作のワークフローと共有について』 ←今ここ!
- Vol.2『The Line 手描きイラストの持つ強みと伝わる表現方法』
- Vol.3『The Light どのように光に寄り添い、ビジュアルに落とし込んでいくのか』
Vol.1 『The Share ビジュアル制作のワークフローと共有について』
Vol.1は、株式会社日建設計CGスタジオ所属のデジタルクリエーター、古山篤志さんのプレゼンテーションです。
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株式会社日建設計 CGスタジオ
2007年日建設計入社。建築CG、アニメ、マルチメディア制作などのプロダクション業務に携わり、多くの設計業務ならびにコンペ等を経験。 新カンプノウコンペ、W350などのプロジェクトに参画し、現在もデジタルクリエーターとして活動中。
名古屋からオンラインでご参加いただきました。今回は大きく分けて
の3トピックスについてお話しいただきました。
代表的な制作物
まずは自己紹介も含めて、私が携わった制作物について説明していきます。
最初に紹介させていただくのは、『W350計画』で制作したCGです。W350計画とは、住友林業株式会社の創業350周年にあたる2041年を目標に、高さ350mの木造超高層建築を実現するための研究技術開発構想です。
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次に、バルセロナの『新カンプ・ノウ計画』の時に作成したCGです。こちらのCGを使って、次の項目で簡単な制作フローを紹介します。
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こちらは屋外に面したコンコースで、試合後のバーラウンジのシーンを表現したイラストです。
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最後に紹介するのが、ロシアのズベルバンクシティー・コンプレックスのコンペで最優秀賞を取った建築CGです。
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こちらは動画もあるので、あわせてご覧いただければと思います。
公式HPはこちら
守秘義務等の関係で全ての制作事例を紹介することはできませんが、1年間で約40から50のプロジェクトに参加し、多くのビジュアルを制作しています。今回紹介したものは一部だけですが、どのようなビジュアルを手掛けているのかをイメージしてもらえたかと思います。
表現の幅について
弊社のビジュアル制作専門のCGスタジオには、計22名のメンバーが所属しています。メンバー内には設計出身や手描き出身の人など、それぞれ違うバックグラウンドを持った人たちがおり、それぞれが違う得意分野を持っています。
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このチームだからこそできる表現の幅について、事例を交えて紹介していきます。
・フォトリアルな表現
最初は、「フォトリアルの表現」です。
細かい建築のディティールやレンダリング設定にこだわって制作しています。
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・やわらかな表現
次に、「やわらかな表現」です。
見た目に柔らかい表現にするために、CGをベースとして手描きテイストに変えています。このような柔らかい印象にすることで、クライアントの想像力をかき立てるという狙いがあります。
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・コンセプチュアルな表現
こちらは、「コンセプチュアルな表現」です。
特定のコンセプトを強く押し出すために使用される、メッセージ性の強いCGイラストになります。この表現を使う時は、一目で提案が伝わるように情報量を絞ったり、1つの絵に対して1つのメッセージにするということを意識して制作しています。
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・手書きイラスト
次は、「手書きイラスト」です。
場合によっては、このようにイラストを使ってコミカルに表現をしています。思い浮かんだイメージを勢いで伝えるための手法としても使われています。
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・ノーマルCGアニメ/実写合成アニメ
次に、「ノーマルCGアニメ」と「実写合成アニメ」についてです。
アニメーションにも多くの表現がありますが、基本的には通常のCGアニメを制作することが多いです。しかし、実際に人のアクティビティを伝えるシーンを組み合わせる場合には、CGアニメに実写合成をするという手法を使っています。
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これは実際ドローンが撮った映像をベースに、CGアニメを合成しています。
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・ダイアグラムアニメ/キャッチーなアニメ
最後に紹介するのが、「ダイヤグラムアニメ」「キャッチーなアニメ」です。
特定のことを伝える説明的な動画でよく使われている手法です。海外のコンペなどでは、プロジェクトの内容をわかりやすく説明するために使われています。どちらも、必要な情報を「わかりやすく伝える」ということをコンセプトに作られています。
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こちらはnoteでも動画を公開しているので、興味がある方はぜひ動画も観てみてください。
noteの記事はこちら
使用ツールとワークフロー
・使用ツール
最初に、実際に使用しているツールから説明していきます。使用ツールは「デザイン」「レンダリング」「ポスト」の段階によって異なります。
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建築のデザインの設計者は、『Autodesk Revit』、『SketchUp』、『Archicad』、『Rhinoceros』といったツールでモデル制作をしています。
その後、共有されたモデルに対して、『Autodesk 3ds Max』と『V-ray』を組み合わせてレンダリング作業しています。最後のポストプロダクションでは、『Photoshop』で静止画を制作しています。
『3ds Max』と『V-ray』の組み合わせは、建築のビジュアル制作ではよく使われている基本的なツールです。しかしながら最近では、CGスタジオでも『LUMION』や『Twinmotion』、『Unreal Engine』といった、ゲームエンジンをベースとしたリアルタイム型のツールを使うことも増えてきています。
私自身はその中でも、『V-ray』と『LUMION』を使うことが多いのですが、「制作期間」や「プロジェクトのフェーズ」、「どういった表現を求められるか」によってそれぞれを使い分けています。
動画制作の際にはリアルタイム型を使うことが増えてきており、作りたいシーンに対してどのツールを選ぶことが最適なのかをチームで話し合い、検証してから制作に進んでいます。最近の動画制作では、シーンによってV-rayとUnreal Engineを使い分けるなど、複数のツールでレンダリングすることも増えてきました。この選択肢の広がりによって、限られたスケジュールの中でより質の高いビジュアル制作ができるようになってきたと、個人的に思っています。
・いかに早くチームで最終イメージを共有できるか
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コンペという短期決戦において、いかに早くチームで最終イメージが共有できるかはとても重要です。途中で変更があったりした場合、最終的なクオリティを上げるためのブラッシュアップに時間をかけられなくなってしまいます。ブラッシュアップにこそ時間をかけたいので、デザインが固まる前から先行して絵を制作したり、動画の場合はコンセプトを理解してシナリオを先んじて制作するといった、時間を作る工夫をしています。モデルや指示が出てくるのを待つ受け身の姿勢ではなく、設計に歩み寄って制作しています。
最終イメージを早く共有することで、早い段階で目指すゴールも同時に共有することができ、結果的に自分たちのペースで作業を進めることができます。最初にビジュアルが共有されることでチームのモチベーションを上げることもできるため、早い段階でイメージを共有することを心がけています。
・「伝える」ビジュアル 「伝わる」ビジュアル
ビジュアル制作にスピードはもちろん大切ですが、同じくらい自分にどれだけの引き出しがあるかという表現力の幅も大切です。

「伝える」ビジュアルは、シンプルにはっきりと、相手に届けるということを重要視しています。建築CGの主役である、建築物のイメージです。「伝わる」ビジュアルというのは、受け取った人の気持ちを動かしたり、共感させたりといった感情に訴えかけるものです。
私はこの2つがどちらも大事だと思っていて、ビジュアル制作のときにはこの2つの間で落とし所を探しています。
では、下の2つのCGイラストをご覧ください。
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左のCGイラストでは、建物が中心に位置しており、コンセプトがはっきりとしている「伝える」というメッセージが強いビジュアルになります。右のCGイラストは、風景に溶け込んだ建築物を全体の一部として描いた、ストーリー性のあるビジュアルです。
建築CGにもトレンドがあり、そのうえ毎回設計者も違えば、ビジュアルを制作するチームやクライアントも違います。つまり、求められるものは常に変化しているということを認識している必要があるのです。だからこそ、この2つの表現の幅を広く持っていないといけません。また、クライアントのさまざまなオーダーに対して、どれだけ多くのパターンを提案できるかが重要になってくると、私は考えています。
・制作フローとブラッシュアップの流れ
では、先ほど制作物でも紹介した、バルセロナの『新カンプ・ノウ計画』と『W350計画』のCGを使って、簡単な制作フローを紹介します。
これはカンプ・ノウの内観のCGですが、これをベースとしてPhotoshopを使って仕上げていきます。

最終的に視線のポイントをフィールドにしたかったため、視線が絵の外へ逃げないように視線の流れを意識しながらレタッチを行っています。
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自分の感覚だけでレタッチしてしまうと大きく色味のバランスを崩してしまうため、必ず最初にリファレンスを探して、常に見比べながらレタッチしています。
そして、こちらが完成品です。
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全体のフローの中で、レタッチをする際に全体の雰囲気作りをしている点が伝わるかと思います。
次に『W350計画』です。
これが、最初に設計から共有されたモデルです。これをベースにして、モデルを追加しながら次のステップに進んでいきます。
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外装を螺旋状に上っていく緑は、フォレストパックのプラグインを使用して配置しています。
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構図とライティングは建築の印象大きく変えてしまう要素のため、何度も試しながら時間を使って調整していきます。
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そして、ここからがレタッチ作業です。
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背景の森まで全部モデルで作ってしまうと全体的に細かい絵になってしまうため、今回は実際の写真を重ね合わせて作っています。メインの建造物という伝えたいポイントを絞る意味も込めて、背景には写真を使っています。
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鳥観図の場合は奥行きを出すのが少し難しいのですが、遠景ではコントラストを徐々に落としたり、雲のところは空気の層があるということを意識しながらレタッチしています。
冒頭にもお見せしましたが、こちらが完成品です。
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まとめ
使用ツールの種類が増えたことやビジュアルの幅が広がったことによって、よりクオリティの高いCGイラストが求めれるようになりました。
そのような状況下でも、チーム一丸となったスピード感のある制作や、自分の中にあるイメージを文章化・見える化をしてクオリティを落とさないようにするという姿勢には、みなさんもとても勉強になったと思います。
ぜひ、今回貼ったリンクや動画を参考に、今後の制作に取り組んでみてください。
- Vol.1『The Share ビジュアル制作のワークフローと共有について』 ←今ここ!
- Vol.2『The Line 手描きイラストの持つ強みと伝わる表現方法』
- Vol.3『The Light どのように光に寄り添い、ビジュアルに落とし込んでいくのか』