- Vol.1『The Share ビジュアル制作のワークフローと共有について』
- Vol.2『The Line 手描きイラストの持つ強みと伝わる表現方法』 ←今ここ!
- Vol.3『The Light どのように光に寄り添い、ビジュアルに落とし込んでいくのか』
2021年10月に開催しました「建築ビジュアライゼーションMeetUp Online 第一弾」。
Vol.2は、株式会社日建設計イラストレーションスタジオ所属のイラストレーター、TOM GASTEL(トムガステル)さんのプレゼンテーションです。
株式会社日建設計 イラトレーションスタジオ
I am a licensed architect in America and have been working as an architectural illustrator for many years in both America and in Japan. My specialities are aerial illustrations with a lot of activity and descriptive illustrations showing how the architectural spaces will be used.
日本とアメリカの2ヶ国で建築イラストレーターとして活動しているトムさんに、2つのトピックス「手書きイラストの強み」「伝えるための様々な表現方法と作成手順」についてお話しいただきました。
どうぞ、当日の映像もあわせてご覧ください!
※時間は、38分30秒から再生いただけますと、Vol.2を視聴できます
Vol.2 『The Line 手描きイラストの持つ強みと伝わる表現方法』
手描きイラストの強み
建築ビジュアライゼーション業界に限らず、3DCGをデザインするソフトは数多くリリースされています。しかしそんな中でも、手描きイラストだから伝えられる強みを説明します。
早速ですが、手描きイラストの持つ強みを9項目挙げてみました。
- 感動を伝えられる
- 思考を最速で可視化できる
- 表現を誇張してわかりやすくできる
- 最小限の情報でイメージをつくれる
- プロセスをより見せられる
- イマジネーションを搔き立てられる
- ラフスケッチ的なアプローチができる
- 人の温もりを感じられる
- クライアントを納得できる
速いスピード感、かつ最小限の情報だけで思考を可視化できるところが手描きイラストの強みです。そして、手描きにすることで人の温もりを伝えられ、より感動を伝えることができます。これらのことはデジタル3Dイラストでも表現できますが、手描きだとデジタルよりも人の心に響かせることができると考えています。
また、誇張表現もとても重要です。実際のパースよりも道路を少し広く見せたり、人を大きく描写することで、そのまま描くよりもわかりやすく伝えることができます。
世界的画家パブロ・ピカソが言った「Art is a lie that enables us to tell the truth.(芸術とは我々に真実を悟らせてくれる嘘である。)」という有名な言葉があります。
これは建築イラストでも同様であり、時にはイラストをデフォルメ、つまり誇張することで、見ている人によりわかりやすく伝えることができるのです。
”伝える”ための様々な表現方法と作成手順
動画の中では8項目に分けて説明していますが、今回はその中でもホットトピックスだった4項目に絞って説明していきます。もし、それ以外の項目にも興味がある場合は、どうぞ動画をご覧になってください。
・断面図(Building Section)
まずは、断面図の作成手順について画像と共に説明していきます。最初に、クライアント側からベースとなる3Dモデルを提供してもらいます。
この段階では人の流れや活動などは反映されていません。
そこから、3Dモデルをもとにペン画で描き起こします。ここから更に、地下鉄からの流動などの人の活動や周辺の環境を描き足していきます。
そして最後に水彩絵具で着色します。画像からも、デジタルでは表現しにくいような温かみが伝わってくるかと思います。
では、もう一つの断面図も見ていきます。
こちらは、『W350 計画』のために作られた断面図です。住友林業株式会社が創業350周年となる2041年を目標に、高さ350mの木造超高層建築物を実現するための研究技術開発構想で、実現の一歩のために作成されました。
木や水という自然と共生している「自然との調和」をテーマとしています。そのため、水が流れている様子や、動物が点在している様子にも目が行くように誇張気味に描かれています。
・配置図(Site Plan)
次は、配置図について話していきます。
こちらの画像はレンダリングの一部です。人の大きさが大・中・小の3段階に分かれています。これにより、人がどの場所でどのような活動をしているのかをわかりやすく確認できます。
では、こちらでも作成方法のフローを見ていきましょう。
断面図の時と同様に、まずベースとなる3Dモデルを提供してもらうところから始まります。
提供された3Dデータに対して、水面や道路の情報を加えます。
そこに影を追加することで、立体的に見せることができます。真ん中にある4つの高層ビルと、その他の建造物との高さの違いは、影によって表現されています。
よく見ると、真ん中4つのビルの影が長めに描かれていることに気が付くと思います。このような影の効果によって、道路上にある立体遊歩道の高さもイメージすることができます。
そして、最後に人の活動を付け加えて完成です。どの場所にどのように人が集まっているのかという情報もここで表現しています。
車の動き1つをとっても、どのような人の流れがあるのかをイメージできるようにしっかりと描く必要があります。
このように情報を段階的に付与していく方法だと、1つのチームでも多くのイラストレーターが関わっている場合があります。人を描く人、道路を描く人、風景を描く人、水彩で色を加える人や、そして全行程をまとめるプロジェクトリーダーもいます。
そういった行程を経て、1つのイラストが出来上がっていくのです。
・ランドスケープスケッチ(Landscape Sketches)
次は、ランドスケープスケッチの説明です。ランドスケープ(Landscape)のそのままの意味のごとく、景観を描いたスケッチです。
まずは設計者から鉛筆のスケッチをもらうところから始まります。多くの絵の中から、どの絵が「情報をしっかりと伝えられるか」、「親しみを感じられるか」ということを判断しながら、次の着色する作業に移ります。
水彩絵の具で色を付けています。完成品にする際には、光効果なども付与します。中央部のランタンや空にある星の輝き、水面に反射している月などの光は手描きでは困難なところのため、Photoshopを使っています。
このような行程を経て、全てのイラストに色を付けていくと、下記のようになります。
・カートゥーンスタイル(Cartoon Style)
最後に、説明するのがカートゥーンスタイルです。カートゥーン(Cartoon)は、マンガ・アニメという意味のため、リアルに描写するものではありません。
こちらは、色々な国から人が集まる空港を描いたイラストです。色々な国の言葉を吹き出しで描くことで、国際的なところを表現しています。
カートゥーンスタイルはリアルに描かないからこそ、独特な色使いをすることができます。こちらのイラストでは、人が歩いている道路を黄色にしています。こうすることで、色合いがとても印象的になり、注目を集めることができるのです。
このように、全ての作業を手描きで行っているわけではありません。光表現などを付与するような行程は、Photoshop等のソフトを使っています。
しかし、手描きだからこそのスピード感やイラストに込められる人の温かさはとても重要だと思っています。デジタル化が進んでいる今だからこそ、伝えられるものがあると私は考えています。
まとめ
建築という分野は、構造物を中心としたデザインになるために、一見スケッチをすると、無機質なものになりがちです。しかし、トムさんのイラストレーションは、「温かみ」「ぬくもり」といった人々が住む街に必要な要素を感じさせる、とても人間味を感じる表現でした。
ぜひ、みなさんも動画をご覧いただき、再現してみてください。
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