2023年4月7日(金)にオンラインで開催された『コンピュテーショナルデザイン入門「デジタルと創作と連携」』のイベント内容をご紹介します。
主催 :株式会社Too
協力 :株式会社GEL
協賛 :オートデスク株式会社
講師 :株式会社GEL 代表取締役 石津 優子 氏
どうぞ、当日の映像もあわせてご覧ください!
【動画】
コンピュテーショナルデザイン入門『デジタルと創作と連携』
登壇者紹介
自己紹介
簡単に私自身の自己紹介をします。株式会社GELの代表取締役、石津優子です。神戸大学工学部の建築学科出身で、意匠設計をしている研究室に所属していました。その後、ワシントン大学に交換留学した際に、デジタルデザインの分野を知りました。それからデジタルデザインについてより深く勉強するため、スイス連邦工科大学でコンピュテーショナルデザインやデジタルファブリケーションの技術を1年半の間、専門的に学びました。
その後、帰国してフリーランスで仕事をした後に企業に所属し、BIM周りやクリエイティブなツール作成関係の仕事をしていました。2020年からもう一度フリーランスとして仕事をし始め、2021年には株式会社GELを設立しました。
コンピュテーショナルの界隈を盛り上げるための「建築情報学会」の理事も務めつつ、『ArchiFtureWeb』というメディアでコラムニストとしても活動しています。
また、『Computational BIM with Cynamo + Revit』と『Parametric Design With GH』の2冊の技術本も書いています。この2冊の本は、今回のセミナーでの説明の際にも使用しています。
セミナー概要
本日のセミナーは、コンピュテーショナルデザイン「入門デジタルと創作と連携」です。1時間半のレクチャーだけで、Grasshopper(以下、GH)の達人になれて、Rhinoceros(以下、Rhino)のプラグインを開発できて、GHのライブラリを開発できて、Unityで開発ができるようになるというわけにはいきません。
そのため、今回の内容としては
・コンピュテーショナルなアプローチによる問題解決の思考を知る
・手法の異なるソフトウェアや技術を用いた事例を通して、問題解決方法を知る
・技術が生まれた背景(課題)を通して、その技術を学ぶ
の3軸を捉えながら、デジタル技術を用いた創作と連携を考えることで、建設業の創造的な仕事のワークフローの再考をテーマに話をしていきます。
コンテンツは上の4つです。
1つ目は、「技術と学び」です。コンピュテーショナルなアプローチで物を作ることについて説明します。2つ目の「GH・Dynamo」では、グラフィカルコーディングの活かし方について話します。
3つ目では、データドリブンなBIMと言われて話題にもなっている「データドリブン」について、データドリブンなワークフローとこれまでのワークフローとの違いについて説明します。4つ目は「カスタムアプリとソリューション」について、小さな技術の組み合わせでカスタムなツールを作ることについて説明していきます。
01. 技術と学び
早速、1つ目のトピック「技術と学び」について話をしていきます。
BIMの置かれている現状
多くの人と情報交換する中で、BIMを含む技術を学んでいると、
・管理者視点では、BIMや技術が分かる人が圧倒的に足りていない。
・技術者視点では、学びが膨大かつ新しい技術やソリューションが多すぎてできる気がしない。
などの悩みを聞くようになりました。
また「Society5.0」と言われているように、ChatGPTに代表されるAIがこれだけ生活に浸透してきて、今は社会が劇的に変わっています。そこに対してワクワクする気持ちと、さまざまな技術が出てきて「どのように働いたら?」や「どうやって勉強したら?」などの少し不安な気持ちが混在している状況だと思います。
BIMを含む技術の現状を、「開発現場」、「人材育成」、「効率よく学ぶ」の3つに分けて説明します。
開発現場から見ると、BIM関連の開発ニーズは高まっています。さまざまなツールが出てきたことで、以前より少ない知識と労力でBIMを活用できるようになりました。私たち以外にも、多くの企業で開発のツールを使ってさまざまな取り組みが行われています。しかし、多くのことができるようになる一方で、それを支える技術は高度化・複雑化しています。簡単そうに見えても仕組みを知ろうとするとブラックボックス化されていて、何が起きているのか分からない状態です。
次に、人材育成についてです。高度化された技術の中でも、私たちは成果を出さないといけません。そのため育成面に関しては、DynamoやGHなどのソフトウェアの操作に関して根本的な仕組みの説明を省いた1問1答式の表面的な教育で精一杯です。根本的なことを説明できる余裕が無いことが多いため、現場に即投入というケースが多くなってしまいがちです。
そういった状態で実際に問題が起きてしまうと、1問1答式と少し違う事態になっただけで解決できません。また、根本的に理解できてないため、自力で問題解決することもできません。その上で、既存技術の問題を踏まえて新しい技術を創造しないといけませんが、既存技術の知識が薄くなってしまっているため、新しい技術を生み出せない現状にあります。
そういった学ぶことが膨大にある中で、大事なことは「効率よく学ぶ」ということです。学ぶことが膨大なうえに技術の進歩も早いため、少し気を抜くだけでもすぐに取り残されてしまいます。どんなに優秀な方でも、少し遅れるだけで自分の技術が廃れてしまうということも起こりえます。
こういった技術進歩が早い分野は、建築や工学などの長い歴史があり体系化されていて学びやすい分野に比べて、スピーディに変わってしまうため体系化することが非常に難しいです。また、教えられる人材も少ない上に忙しいため、教える時間を作ることができません。しかしながら、独学で学ぶには膨大すぎて体系的に効率よく学ばないと時間が足りないという現状にあります。
私自身もRhinoやGH、Dynamoについて時間をかけて学習しました。自分で検索して情報収集しながら、1つ1つ対応していく中で体系的に捉えられるようになりました。その学習をもとに、これから学ぶ人には体系的に効率よくRhinoやGH、コンピュテーショナルBIM、Dynamoツール、Revitツールなどを学んで欲しいと思い、2つの本を書きました。
プログラミングもコンピュテーショナルも全くやったことがない人でも、これらの本を最初の章から読み進めていくと段階的に捉えられるようになることをコンセプトにしています。
この2冊の本によって、各ツールが使えるようになった人は増えたと思います。『Parametric Design With GH』は2017年が初版でしたが、それからユーザーが劇的に増えて、大手の設計会社も含めて使っていないことの方が少なくなってきているほどに浸透度が高まっています。
一方で、「自分の業務にどう使おう?」や「そもそも必要なの?」という疑問もまだ見受けられる状態です。実際に、「RhinoもGHもDynamoもRevitもやらなきゃいけない」と思っている方も多いと思います。
回答として、「全部やった方がいいですよ」というのは簡単です。しかし、なぜそこに技術が存在してるのかを考えて背景を知ることで、自分自身に必要かどうかをそれぞれ説いていってほしいと考えています。
AIと建築デザインの軌跡
建築デザインの技術の背景を知る際に、上の表がとても分かりやすいです。これは、ハーバード大学のスタニスラス氏が書いた「AIと建築デザインの軌跡」というダイアグラムです。1930年からモジュール建築が行われ、1960年からコンピュテーショナルデザインが始まったと示されています。この表では、CADで線が描かれるようになったことをコンピューテーショナルデザインと定義しています。
その後の1990年代、ザハ・ハディッド氏が有名になり始め、パラメトリックなデザインが流行し始めます。それからMAYAのコンピュテーショナルツールのMELの言語を使って複雑なコンピュテーショナルな形状が作られるなどを経て、2000年にRevitが登場します。そして、2007年にGHが出てきたことで、パラメトリックな建築を加速化させていきました。
右端の現在のところには、アーキテクチャ+AIと書かれています。使いやすさで知られるChatGPTに始まり、AIと建築が密接に関わる時代に突入しているということです。
このように表で見てみると、CADの誕生した1960年からコンピュテーショナルデザインの歴史が始まっていると捉えることができます。AutoCADは1982年に初めてリリースされて、私たち一般層でもCADを使えるようになりました。それまで紙とペンで描いていたものをコンピューターで描画することは、画期的な技術革新でした。
手書きからCADに移行した後、1992年にAutoCADのプラグインとしてRhinoが登場しました。Rhinoは、AutoCADが不得意としていたフリーフォームモデリングをするために開発されました。1982年のパソコンと1992年のパソコンではスペックが大幅に違うため、計算量が多くても描画できるようになった背景もあり、Rhinoでフリーフォームモデリングをするようになりました。
そして、2000年にRevitがリリースされました。CADやRhinoではジオメトリを認識していましたが、形を認識するだけではなく部品として物を捉えられるようになりました。いわゆるオブジェクトベースと呼ばれるもので、ジオメトリと一緒に付随する情報がパッケージで入っているようなイメージです。
Revit+Dynamoの特徴
次に、「Dynamoにどういう良さがあるか」を考えます。Dynamoを動かしているのはRevit上です。Revitでは、物がどういう用途で作られている要素なのかという情報を付加しながら作ります。そして、DynamoはそのRevit上の情報を加工や入力、大量にあるデータベースの中からのデータの引用、整理などの用途に使われています。
上の画像には「情報処理速度」、「コンピュータの高度化」、「グラフィカルコーディング」、「作業効率化」と書いてありますが、要約するとDynamoはRevit上の作業を効率化するためのツールということです。
Revitの作業効率化について少し深掘りします。Revitのインターフェースを使ったことがある方は分かると思いますが、操作は複雑ですし、個人の作業を繰り返している部分が多いです。Dynamoは、その繰り返しの作業をロジック化することで素早くデータを作れるようにして、データを収集して編集できるツールだということです。
もう1つの特徴には、グラフィカルコーディングがあります。グラフィカルコーディングでは、コンポーネントをつなげるだけでプログラムが作成できます。非常に短い学習時間でプログラムを書くことができるため、今でも使われています。基本的に、Dynamoを使っている人はコンピュータサイエンティストではありません。Dynamoはプログラマー以外の人が自分のためや会社のために自動化ツールを作るもののため、プログラムの知識がない人でも扱えるのがグラフィカルコーディングの特徴になります。
Rhino&GHの特徴
次に「Rhino&GHとは何か?」を考えます。Rhinoは、元々AutoCADのフリーフォームを担う、隙間を埋めるような存在でした。要するに、ジオメトリに強い計算機というイメージです。
「コンピュータの高度化」に複雑な形状を作れる環境シミュレーション・構造シミュレーション=大量の計算ができると書いてありますが、複雑な形状ができるのはコンピュテーショナルで大量の計算ができるからです。形を作るのはもちろん、形と計算を組み合わせたい時にRhinoの強みを活かせます。
そして、GH自体はパラメトリックなデザインを作ることを目的としてしているため、デザインのプロセスを論理化できるところも強みです。そのため、ボックスを作ったとしても、幅×奥行き×高さのパラメータの数値をスライダーで入力すると、リアルタイムに動かすことができます。どのような形を作るか、ロジックを組みプロセスを踏んでデザインができているか、それらを論理化できるところがRhino&GHの強みです。
グラフィカルコーディングに関しては、RevitのDynamoと一緒です。それぞれ似ている点は多いですが、使うソフトウェアがそれぞれRhinoとRevitで用途が違うため、使われるポイントが変わるということです。
好きな名言 その1
ここで1つ、私の好きな名言を紹介します。天文学者のカール・セーガン氏が言った「科学技術に極度に依存した社会でありながら、人は科学技術のことをほとんど知らない。」という言葉です。この言葉は現状を言い当てていると思っていて、日々技術が発展していく中で、発展して浸透すればするほど私たちは特に何も考えずにその技術を使っています。
「DynamoとGH、どっちを使ったらいいの?」という質問は、あまりにも浸透しすぎていて、その中身や作られた経緯を知らないから出てくる質問だと思います。しかし、技術は最初に課題があって、その課題を解決するために新しい技術が生まれています。そしてその新しい技術が課題を解決する一方で、その新しい技術も課題を抱えているというように、循環を繰り返して技術の進歩は進んでいます。
ChatGPTを使ってAIと会話したことがある方は分かると思いますが、何が起きているか全く分からないけど使える技術はすでに世の中にたくさんあります。そのため、技術の存在理由のような、根本的な点にも目を向けてみることも技術を理解するためには大切ということです。
02. データドリブン
1つ目の「技術と学び」は、作業をする上で自分のパソコンの中で完結する内容でした。次に、大量のデータを使いながらリアルタイムで送信する、「データドリブン」について説明します。私たちは情報を伝えるためにデータを作っていて、基本的に誰かに伝達することが前提です。
なぜ、BIMが難しいのか?
技術の発展によって扱えるデータ量が増えていて、その上でリアルタイムに通信ができる背景があります。そこで、「なぜBIMが難しいのか」、「なぜこんなに素晴らしい技術が手元にあるにも関わらず、使い切れずに苦しんでいるのか」ということを考えてみると、大きな違いはファイルベースからデータベースのワークフローに変わったところにあると考えています。
今までは、CAD図を作る際には1人でデスクトップ上のファイルで作業していました。一方で、Revitなどでも使われているワークシェアリングや、『BIM360』というBIMを一元的にデータを管理する技術が進んできています。そのため、複数人が同時に1つのファイルを触っている状態が起こりえます。
一元的にデータ管理する理由には、ファイルベース作業の課題がありました。ファイルベースの作業を経験したことがある方は多いと思いますが、リアルタイムなデータ送信はできません。1つのファイルを複数人で作業できないためそれぞれで作業しなければならず、作業効率は悪いです。また、自分が作ったデータを相手に送ることが前提のため、データが重複して存在してしまいます。ファイルをやり取りしている間にどれが最新データか分からなくなることも起こりえるため、最新データを追う際にファイル管理が必要になるという課題もあります。
その課題を解決するためにデータをクラウド上、つまり一元的に管理して複数人で同時に作業できるのが、データベースのワークフローのメリットです。1つのデータに対して全員が履歴を追うことができるため、最新のデータを簡単に追うことができる素晴らしい技術ではありますが、見えてきている課題もあります。
今回は作業員が3人いて、管理者が1人いるケースで考えてみます。画像左側のファイルベースでの管理では、管理者がそれぞれ1人ずつに作業を頼んでいるため伝達パスは3本しかなく、人が人を管理しやすいシステムになっていることが分かります。
画像右側のように複数人でクラウド上のデータを作業すると、例えば1つのデータをAさんが作業した時にBさんにもCさんにも影響してきてしまうため、情報伝達のネットワークが複雑になります。今回のケースのように3人いる場合、3×3で9本の伝達パスができてしまいます。その伝達パスをAさんとBさんとCさんがコミュニケーションを取らずに同時にデータを操作できるようにする際には、管理が大変です。データをどのように作るのかというプロセスや、権限の与え方の知識などが必要になるため、作業管理のスキルが必要になってしまいます。
単純計算で分かるように、人数が増えればその分だけ複雑化します。20人ではファイルベースで20×1の20本の伝達パスだけですが、データベースでは20×20で400通りの伝達パスができてしまいます。そういうケースでうまく管理ができていないと400本のパスがそのままで作業が進んでしまうことになり、データが競合してしまうなどの事態になりえます。
例えば、園児を想像してみてください。5人の園児にそれぞれ好きな物を書いていいよと紙と鉛筆を渡したら簡単にうまくいきますが、みんなで1つのレゴを作ってねと言うとまとまらなくなります。あちこちで違う動きをされて、という状況が容易に想像できると思いますが、そういう状態がBIMでも起きてしまいます。
そのため、そういった事態を防ぐための指揮管理が求められます。BIMには管理しやすくするための機能もたくさん作られていますが、その機能を勉強するコストがかかることもあるため、BIMが難しいと言われる理由の1つになってしまっています。
なぜ、プログラミングなのか?
そこで、ここからは「なぜ、プログラミングなのか?」について説明します。ファイルベースで単純にアウトプットを増やしたい場合は、人か時間を増やせば対応できます。一方で、BIMでアウトプットを早くしたいからといって人数を増そうとすると、なぜか増やしたにも関わらず遅くなったということが起こりえます。5人から10人に増えたことで逆にコミュニケーションコストがかかってしまい、アウトプットが下がってしまうということです。
そのため、BIMで一元的にデータ管理をする際に、できるだけ情報ネットワークを整理することが求められます。人と人がコミュニケーションを取らなくていいように整理をしながら、ネットワークが増えすぎないようにしつつルールを明確化して、ロジカルにデータを作成する必要があります。
そういった作業が得意なのは、ずばりコンピュータです。プログラムで整理ができて、かつプログラムでBIMのデータも作ることができるため、自動化のニーズが増えてきているということです。
人を増やして人海戦術的にデータを大量に作るのは前時代的なやり方です。プログラミングや自動化のツールを使うためにいかにワークフローを整理し、設計のプロセスを透明化してスムーズなコミュニケーションとコラボレーションを可能にするか、それが今のBIMやオートメーションの課題です。
コンピュテーショナルデザイン入門「デジタルと創作と連携」ウェビナーレポート
- 01.技術と学び & 02.データドリブン ←今ここ!
- 03.GH・Dynamo
- 04.カスタムアプリとソリューション