2023年5月19日(金)に開催された「建築ビジュアライゼーションMeetUp第六弾」のイベント内のメインセッション、株式会社丹青社様による「BIMの活用で実現した緻密で複雑なアートワーク」についてご紹介します。
主催 :株式会社Too
協力 :オートデスク株式会社
株式会社アルファコックス
ミロ・ジャパン合同会社
協賛 :株式会社キャドセンター
株式会社丹青社
講師 :株式会社丹青社 村井 義史 氏
株式会社丹青社 松田 具子 氏
セッション概要
登壇者紹介&レジュメ
最初に登壇するメンバーを紹介します。本日は村井と松田の2人で進めていきます(浦元氏はやむをえず欠席となります)。今回紹介する事例における3人の役割としては、松田が主担当でデザインディレクターを務めています。そして、村井と浦元がBIM担当として関わっていて、さらに村井はDynamoも担当するかたちで役割分担をしています。
本日のレジュメです。最初に当社、丹青社の紹介をしていきます。その後、『YANMAR TOKYO HANASAKA SQUARE』の事例の詳細について紹介します。
丹青社の紹介
丹青社は、「こころを動かす空間をつくりあげるために。」というコーポレートステートメントを掲げています。さまざまな空間創造のプロフェッショナルたちが、豊富なノウハウと高度な技術と専門力、総合力でクライアント様の事業成功のために空間をつくりあげている会社です。
業務を請け負っている地域としては北海道から九州・沖縄の全国をカバーしていて、約1,400名の従業員が在籍しています。プロジェクトとしてはさまざまな分野や規模があり、年間で約6,000件ほどを推進しています。
2021年より、丹青社では新たな価値創造と社会の抱える課題解決に向けてより積極的なデジタル活用を開始するため、手段の1つとしてBIMの導入を行っています。
2022年には、BIM活用による「価値の創造」をより強力に推し進めるため、BIMソフトウェア開発会社であるAutodesk社様と戦略的提携(MOU)を締結いたしました。
事例紹介
ここからは、YANMAR TOKYO HANASAKA SQUAREのBIMの事例紹介に進みます。まず最初に、BIM設計を活用したアートワークが設置されている環境について説明します。
商業フロアの地下1階から地上2階の中央に、『HANASAKA SQUARE』と名付けられた3層を貫く吹き抜けの空間があります。今回、この吹き抜け空間にダイナミックに展開されているインスタレーションアートにBIMを活用しました。
そのアートが設置されている『YANMAR TOKYO』は、全国から多くの人が集う東京駅近くの複合施設で、「人と未来を咲かせる出会いと挑戦の場」がコンセプトになっています。2023年の1月13日にグランドオープンを迎えて、延べ床面積は約22,000㎡、地下1階から2階が商業フロアで、その上はオフィスフロアという構成です。
YANMAR TOKYOは、クリエイティブディレクターの佐藤可士和氏がトータルプロデュースを手がけています。また、今回説明するアートが設置されているHANASAKA SQUAREのデザインの監修とロゴデザイン、アートワークも佐藤可士和氏が手がけています。当社は、佐藤可士和氏のディレクションのもとで設計のお手伝いをいたしました。
“人の可能性を信じる”、 “人の挑戦を後押しする”というヤンマーの創業者、山岡孫吉氏の精神が原点となっている価値観の「HANASAKA」の取り組みを伝えるため、さまざまなチャレンジを行っています。
左の写真にあるHANASAKA SQUAREは、ヤンマーの価値観であるHANASAKAを体現する取り組みや、情報の発信拠点となっています。また、地下1階にはHANASAKAを体現する人や、その活動を映像や展示物を通じて体感できる展示スペースの『HANASAKA STAND』も設置されています。
HANASAKA SQUAREのシンボルは、人の新たな可能性が未来に向けて咲き誇るイメージをHANASAKAのロゴでかたどった、約6,000枚におよぶ桜のパーツで表現したダイナミックなインスタレーションアート『HANASAKA THE FUTURE』です。
佐藤可士和氏がデザインをしたHANASAKAのロゴマークは、ヤンマーのブランドマークであるFLYING-Yを組み合わせたデザイン構成になっていて、HANASAKAがヤンマーの土台となる精神をもとに生まれた概念であることを表現しています。
アートを構成するHANASAKAのロゴをかたどった桜のパーツは4色の和紙と鏡面のポリカーボネートの2種類の素材で、サイズは60mmから150mmの4サイズ、合計20種類のパーツで総枚数6,000枚で構成されています。
CGパースによる検証
大まかなデザインの方向性の承認までは、従来通りの図面とCGパースによる検証を行いました。
上の画像は、一番最初に作成した検証パースです。空間での見え方やアートを構成するのに必要なパーツの枚数の検証が主な目的であり、この時のパーツは全て100mmで統一して構成しています。
検証する中で「パーツのサイズはバリエーションがあった方がいいだろう」、「ピンク色は1色ではなくて濃淡のバリエーションの表現が欲しい」などの意見が上がりました。また、「壁面アートから吹き抜け空間に花びらが舞い上がっていくように、前半は平面の密度が高く、後半に行くにしたがって間隔が広がっていった方がいいのではないか」という提案も出ました。
画像のように高さ方向でパーツが横並びに見えていますが、検証によって「もう少し高さ方向にもランダムさが欲しい」というさまざまな今後の検討課題も見えてきました。
このように、素材やサイズ違いでパーツの種類は複数あり総枚数が膨大で、全体形状、平面・縦方向の密度など、さまざまなパターンの検証が必要です。
また、現場で取り付けてから「ここはもう少し増やしたい、減らしたい」という施工のやり直しがきかないものだったため、クライアント様と正確なデザインのイメージを設計段階から共有していくということが非常に重要だと感じました。
最適なデザインを決定する上で多くのパターン検証が必要な場合、今まで通りの2Dの検証ではイメージの構築やクライアント様との共有、そしてそれを作成するための作図、図面化という工程に膨大な時間が必要です。そのため、このプロジェクトではBIMを活用することを検討いたしました。
Vol.2 REVIT+Dynamoによるアートワーク計画
ここからは、REVIT+Dynamoによるアートワークの計画内容を説明します。
今回の課題として、
1. 素材やサイズ違いでパーツの種類が複数あり、総枚数が膨大
2. 全体形状、平面・縦方向の密度などさまざまなパターン検証が必要
3. クライアントとの正確なデザインイメージの共有
の3つがありました。
最初に松田から相談を受けた際にはREVITでの対応ということでしたが、「REVITだけだと十分な問題解決にならないかもしれない」と考え、Dynamoによる作業の大部分の自動化に取り組み始めました。
Dynamoとは?
まずはDynamoについて説明します。少し流行りを意識して、ChatGPTに質問して答えてもらいました。「Dynamoは、Autodesk社が開発したビジュアルプログラミングツールであり、REVITと連携して使用されます。Dynamoは、ビジュアルプログラミング言語を使用して、構造物の設計や自動化を行うための強力なツールです。」と、うまくまとめてくれました。
見た目としては下の図のように1つ1つのボックスに機能があり、それらを線で繋いでプログラムを組んでいくという機能になっています。REVITに標準で付いているプログラミングのツールに近いイメージです。
Dynamoによるモデル生成
Dynamoを使用してのモデル生成ですが、まずはモデル生成までの前段の手順を紹介します。まず最初に行うのは、「スケッチによる形状の検討」です。まずは、「平面形状や展開形状はこんな風にしたい」と感覚的にデザインに起こしていきます。
2つ目は、「平面、展開の形状の確定」です。ここでは平面や展開で収まっているかを数値的に確認し、形状の確定を行います。3つ目では、「マスによるボリュームの作成」を行います。2つ目で確定した平面、展開の形状をベースに、もう少し丸みを帯びさせるなど、そういった全体の外形形状をマスを使ってボリュームを確定します。このマスのボリュームを使い、4つ目の「Dynamoによるオブジェクトの生成」に繋がっていきます。
Dynamoプログラム
これが今回作成したDynamoのプログラムです。複数の箱と線同士が繋がっています。
Dynamoを実行すると画像のように線と点がDynamo内に生成されますが、これは計算結果として生成された座標です。この座標をベースにしてオブジェクトを配置していく流れになります。
この座標をREVITに戻して、そこに吊り物のオブジェクトを並べるという命令になっています。
Dynamoでの提案フロー
ここまで、一番最初のモデル生成を行いました。設計をしている方だと分かると思いますが、提案は一回で終わるわけではありません。クライアント様に見せて検討協議し、フィードバックをもらってから再度修正・調整し、そしてまた再提案をします。
どんな設計であっても、これは何回も繰り返される工程です。今回の一番の問題がこのサイクルです。これを模型でやる場合をイメージしてみてください。
1回目を作るまではいいですが、そこから仮に「もう少し密度を大きくしてほしい」や「もう少しランダムにしてほしい」などのフィードバックがあった場合、膨大な作業になってしまうというのはイメージできるかと思います。そこで、この問題を解決するためにDynamoで対応しようと考えました。
活用方法ですが、プログラムで平面配置の密度を数値によりコントロールしています。画像左側に25と表示されていますが、これは左から右に25mmずつ少しずつ広がっていくという命令です。このように数値を入れることによって、密度のコントロールができるように最初にプログラムで設定しています。
そのため、例えば5で設定すると、実行ボタンを押すだけで5mmずつ増えていくピッチのモデルの配置が生成されます。このようにプログラムを作ると、クライアント様に次の修正を持っていくにしても、5mmずつ増えていくパターンや10mmずつ増えていくパターンというかたちで1種類だけではなく、10種類や20種類の案を1度に作って再提出することが可能です。
これは今まで模型を作っていた時代からすると考えられないぐらい一気に効率がアップするやり方ではないかと考えたため、今回この手法を採用しています。
Dynamoまとめ
ここで、今回Dynamoでやったことをまとめます。
1. 平面外形からオブジェクトの配置座標を生成
2. 上下のマスの距離に合わせて配置座標上にその長さのオブジェクトを配置
3. 配置したオブジェクトのランダムさを創出
4. 配置の密度を数値入力で変更し、複数案を作成
ここまでがDynamoを活用した手法です。Dynamoで作業してそれで全てが終わるという訳ではないため、ここからはそれ以外のREVITを活用して進めたところも紹介していきます。
Vol.3 設計から制作までのREVITの活用
パラメーターを使ったREVITファミリの活用
まず、配置した吊り物アートのファミリですが、こちらは1本ずつ手作業で作っていきました。ファミリには28種類のタイプがあり、桜の花びらも12種類あります。この12種類の花びらを28タイプの中に縦方向にランダムに配置することによって、全体のランダム感を演出しています。
このそれぞれ1本の配置ですが、桜の花びらにパラメーターを付けて、角度や色の種類、大きさの種類を簡単に変更できるように工夫して設定しています。このあたりはDynamoを使ってはいませんが、パラメーターを設定することで簡単になるという工夫を行っています。
桜アートの配置をREVITで詳細検討
実際にDynamoで桜を配置するのですが、どうしても最終的には感覚的に「もう少し何か変えたい」という部分が出てきます。そういった際には、1つずつもう少し上にする、花びらをもう1つ小さいものにする、などの調整を手作業で行っていきます。プログラミングはとても便利で効率がいいですが、100%イメージに近づけるという点では非常に難しい部分もあります。そこをプログラミングで解決しようとすると、手作業でやるよりもさらに時間が掛かってしまうことがあります。
そのため、設計にDynamoのようなプログラミングを活用する場合は、それらの点に注意しながら何のツールを使った方がいいのかを考える必要があります。
画像は桜のアートワークの平面図ですが、REVITだと多数の展開図が必要な場合でも、断面記号を配置するだけで展開図が作成されるため、非常に効率よく作図することができます。
通常2Dだけで考えると、この画像の場合では52カット必要になります。これを1つずつ展開図で28モデルをどこにどれぐらいの距離で、を考えながら展開図にしていくと途方のもない作業になってしまいます。それらをREVITで行うことによって、効率アップすることができます。
画像は実際の展開図ですが、合計387本のモデル、52ヶ所の断面図が簡単に作成することができています。
クライアント様に提出した後に修正が発生しても、モデルを直せば図面も自動的に更新されるため、書き直しがほとんど発生しません。少し寸法を入れ直すなどは出てくると思いますが、ほとんど作業は発生しないことになります。
集計表機能による制作準備期間の削減
さらに、集計表の機能による制作準備期間の削減も行っています。REVITには集計表という便利な機能があり、集計表を設定することで吊りセットや花びらのパーツの種類と数量がいつでも確認できる状態にしておくことができます。
それによって、常に制作側とも数量を把握しておくことができ、クライアント様の希望と提案内容、予算のバランスを考えながら提案することができます。
画像にある4つの表は、平面密度、立面密度の検証を行った際の集計表です。クライアント様に数量と密度を提案しながら実際どれぐらい数量が増えているのかを数字で提供し、決定するパターンを確認して進めていきました。
このようにREVITでモデルを作成して設計の検討を進めていきましたが、途中からはリアルにイメージを把握してもらうために、Twinmotionでパースや動画を作成してクライアント様への確認することも進めていきました。
WalkthroughとPerspectivesでの検証
地下1階から2階までの3層にまたがる吹き抜け空間をさまざまなポイントから、桜のアートワークがどのように見えるかを動画で共有して検証を行っています。
実際に完成したのは画像のような現場です。
竣工写真と実際のTwinmotionで作成した動画の比較もいくつか作成しました。REVITで作っているものは設計図の元になっているモデルで、実際に現場で作られたものと全く一緒です。そのため、このように比較してもほとんど差異のない状態で現場ができている様子が分かると思います。
REVIT + Dynamo + Twinmotionの活用の効果
今回、REVITとDynamo、Twinmotionの活用で3つの効果が現われました。
1つ目は、「十分かつ綿密なデザイン検証」です。これにより、短時間で複数パターンの検証が可能になりました。
2つ目が、「承認に至る過程を柔軟に対応」という点です。密度や外形形状変更の希望にスムーズに対応して余裕をもって検討が可能になり、クライアント様の要望に応えることができました。
3つ目は、「現場での調整・変更のない信頼性の高い設計」です。イメージと実物の差異がなく、現場での調整や追加要望なく承認をいただくことができました。
おわりに – 丹青社×BIM
今回のプロジェクトは、ディスプレイ業である丹青社らしいBIMの面白い使い方だったと感じています。今後も、「空間デザインにおけるBIMの新たな可能性を見出す」ということを念頭に置き、建築とは少し違う新たなBIMの使い方を発見していきたいと考えています。
建築ビジュアライゼーション MeetUp第六弾 ラインナップ
- 01.Twinmotion 2023.1新機能紹介(アルファコックス)
- 02.オンラインワークスペースMiroのご紹介(ミロ・ジャパン)
- 03.BIMの活用で実現した緻密で複雑なアートワーク(丹青社) ←今ここ!
- 04.フォトリアル3D都市の構築とその未来は(キャドセンター)