2023年5月19日(金)に開催された「建築ビジュアライゼーションMeetUp第六弾」のイベント内のメインセッション、株式会社キャドセンター様による「フォトリアル3D都市の構築とその未来は」についてご紹介します。
主催 :株式会社Too
協力 :オートデスク株式会社
株式会社アルファコックス
ミロ・ジャパン合同会社
協賛 :株式会社キャドセンター
株式会社丹青社
講師 :株式会社キャドセンター 清水 宏優 氏
株式会社キャドセンター 松本 学 氏
セッション概要
本日は、フォトリアル3D都市の構築とその未来について話をしていきます。3D都市の制作的構築やその概要、そしてユースケースを紹介します。
登壇者紹介
まずは本日の登壇者の2名を紹介します。1人目は、株式会社キャドセンターのプロデュースグループ、マーケティングチームの清水宏優です。2人目は、映像/グラフィックグループ、テクニカルディレクターの松本学です。
キャドセンターは3DCGの制作会社ですが、2人それぞれの役割をシンプルに表現すると清水が制作した3DCGを売る人で、松本が3DCGを制作する人です。
最初に、簡単に清水の自己紹介をしていきます。マーケティングチーム所属のため、主な業務は集客施策の立案や実行です。+αで、営業的な動きや受注した仕事のディレクション業務、フロント業務全般など、少し特殊な働き方をしています。
2人目の松本ですが、映像/グラフィックグループ所属でたくさんのCGを製作しています。簡単に、これまでに制作した3DCGデータの一部をご紹介します。
画像は、制作した神輿のデータです。こちらのように物体を全てモデリングして、リギングやカメラアングルの構築、レンダリングまでやることもあります。他には、ドローンを操縦して撮影した映像を編集したり、CGも作ってドローンも飛ばし、実写の映像を撮影して編集したりと、結局のところ映像まわりは何でもやっています。
会社紹介
株式会社キャドセンターは、3DCGを使った映像、静止画、インタラクティブコンテンツ、VRコンテンツ、シミュレータの制作・開発をする会社です。それとはまた別で、全国の都市や港湾の3Dデータを自社で管理や開発、更新もしています。
沿革
1987年の設立当時から、不動産建築系の3DCGが生業です。現在や未来の建物CGも制作していますが、史跡などの復元系のCGを得意としています。
2002年には、本日の主題である3D都市データの1つ『MAPCUBE』をリリースしました。また2012年においては、東京オリンピック招致CGコンテンツも制作しました。
2016年には、『フォト・リアルスティック3次元データREAL 3DMAP TOKYO』をリリースしました。これはのちほど詳しく説明します。2019年には夜景版もリリースして、それが「VFX-JAPANアワード2019」の賞も受賞しています。
最近では、パースや映像などで活用できる3D樹木のアセットも一般販売し始めました。
業務領域
画像の通り、当社が制作するCGは主に5つの分野で使用されています。業務の半分以上は、建築・不動産系です。展示やイベントプロモーション、自治体、防災などの制作量はその年によって変動します。
都市データ紹介
当社が一般リリースしている都市モデルは、測量データや地図航空写真を元に地形や建築構造物を高精度に構築しています。建物データの精度も、プラスマイナス50cmという高精度で再現しています。
主に景観や眺望シミュレーション、防災などで活用されていて、さらにはGISへの引用なども行われています。フォトリアルCGの表現力を追求した都市モデルとなっていて、空撮映像の代用として利用することも可能なクオリティです。
画像上段の2つは東京都23区を再現している『REAL 3DMAP TOKYO』と、その夜景版である『REAL 3DMAP TOKYO夜景』です。あとは大阪24区を再現している『REAL 3DMAP OSAKA』と、横浜を再現した『REAL 3DMAP YOKOHAMA』などがあります。
さらに近年では、アイレベル(人の目線)で利用できる詳細モデルデータ、『REAL 3DMAP+ Shibuya』もリリースしています。主に、都市のデジタルツイン活用やビジュアル素材として利用されているデータです。
3D都市データの利用は社会的課題解決にとどまらず、観光やエンタメ分野、ARやVRなどのXRなどのさまざまなコンテンツで活用されています。
去年メタバースという言葉がバズったことに関係して、当社でも『街バース』というデータをリリースしました。
上の画像は『UNREAL ENGINE(以下、UE)』で描画している動画のスクリーンショットですが、UEやUnityに最適化された都市データとなっています。
PLATEAUとキャドセンター
都市の3Dモデルと関わりが深いものに、『PLATEAU』があります。
PLATEAUとは、国交省が進める3D都市モデルの整備、活用のための先進プロジェクトです。都市の3Dモデル化が行われていて、これまで124都市が整備されています。2023年度には、さらに約70都市が追加されるといわれています。
PLATEAUの使用するCityGMLには、「LOD」という概念があります。これによって、建物の3Dデータに関する詳細度の異なる情報を、レベルによって統合的にデータ管理ができるようになっています。余談ですが、LODとは「Level Of Detail」の略です。これによって、データが持つ全ての情報を一元的に管理や蓄積、利用することができます。
簡単に言うと、画像一番左のLOD1が箱型のモデルで、LOD2が屋根形状まで表現されたモデルです。LOD3では建物の外構や開口部まで表現され、LOD4は室内まで詳細に作り込まれた情報になっています。
PLATEAUプロジェクトの中でも、ユースケースと呼ばれている3Dモデルを使った案件が進んでいます。当社も、2012年と2022年度には画像に載っている4つのユースケース制作のお手伝いをしました。
後ほど、左下の「熊本県玉名市様のプロジェクト」についてもご紹介します。
Vol.2 3D都市モデル起こしとデータ構築
ここからは、当社の3D都市モデル起こしデータの構築について説明します。
建築CGの広域都市の表現は、ほとんど空撮合成がメインでした。ドローンを飛ばすことや空撮ヘリに乗ることもありますが、天候に左右されやすいうえに飛行禁止区域が意外と多いこともあり、同じようなアングルになりがちでした。また、ヘリは速度があまり上げられないため、早い映像を作るために早回しにして合成した結果合成が難しくなるなどの課題もありました。
空撮合成で試していった中で、「広域都市のCGデータが欲しい」という結論に至りました。現状広域の都市CGデータは少なかったため、作ることにしました。
空撮データを何度も見て、現状のデータから足りないものに行きついてサンプルで作ったのが上の画像です。足りないものは、植栽のマップと建物反射でした。
その手応えがあったため、東京全域にある有名な建物の窓マスクを全制作で手分けして作って、木を生やすところには植栽マップを作って上の画像のような都市データを作り上げました。
都市データの中身
続きまして、都市データの中身について話させていただきます。
画像は3dsMaxの画面ですが、軽量化のために1区画4km×4kmで統合しています。それらを43区画合わせると東京全域になるというかたちです。東京全域のデータであっても普通のPCで動かせるということを意識してデータを作ったため、とても軽量になっています。
この東京のデータで東京タワーなどの建築物を見た後に、「富士山はどこにあるの?」とよく言われていました。そこで、3Dモデルでも見えるように遠くに富士山のデータを入れてあります。
次にデータの柔軟性についてです。極端な例ですが、スカイツリーを外して、東京タワーの場所に置き換えるということも簡単にできます。このように建物を置き換えるのも簡単ですし、手前に位置する必要な建物は高精細に作って、奥は粗いデータで運用することも可能です。
広域都市データを軽量に扱うために
広域都市データを軽量に扱うために必要な3dsMaxの設定について説明します。
基本的なことですが、これら6つの設定によって速度面で問題なくデータを触ることができます。
夜景データについて
また、需要があったため夜景のデータも制作しました。
昼のデータと異なる点は窓明かりや航空障害灯、まちあかり、看板、自動車などの明かりです。夜景データも何度も空撮を見て制作しました。トワイライトタイムも無限に作れるため、綺麗な状態でレンダリング可能です。あとはデータが軽いため、プレビューアニメーションでカメラのリテイクを50回やったとしてもストレスを感じずに済みます。
夜景データもデータの加工性がよく、街をキラキラさせたい時に光源を足すことも比較的簡単にできます。
また、空撮で180度撮影しようとすると自分が写ってしまったり、ヘリの速度の限界もあるため、180度のレンダリングも便利です。
UNREAL EDITER FOR FORTNITE
少し毛色が変わりますが、『UNREAL EDITER FOR FORTNITE』というのをやってみようと思っています。画像のように、東京駅の周りのデータをFORTNITEに読み込んでいます。遊び感覚ではありますが、これによって結果的に土曜日も日曜日も都市データを触って過ごしています(笑)。
Vol.3 納品実績紹介
実績1 三菱地所レジデンス様
ここからは、都市の3Dモデルを使った実績を紹介していきます。
1つ目の事例は、三菱地所レジデンス様が大阪市内に発表するタワーマンションの3物件についてのデータサイトやトップ動画の制作です。
さきほど紹介したREAL 3DMAP OSAKAの夜景を利用して、実写では実現が難しいアングルも含めて映像化しています。映像表現では、高級感のあるタワーマンション誕生を想起させるような華やかで上品な演出を目指して作っています。
実績2 東京都都市整備局様
2つ目は、東京都都市整備局様のパイロット動画の制作です。画像の通り、PLATEAUの東京都西新宿のLOD1とMMSの点群データ、地下通路の点群データの3つを掛け合わせてパイロット動画を制作しました。
地下通路を点群測量して、それをコンテンツ化している映像のスクリーンショットです。こういったコンテンツも当社で制作しています。
納品実績3 熊本県玉名市様
3つ目は、熊本県玉名市の3D避難シミュレーションのVR制作の実績です。PLATEAUのデータを活用して町並みを再現し、それをもとにVRで避難シミュレーションを行って住民の方の防災意識を高めるという内容となっています。実際に住民の方にヘッドマウントを装着してもらい、体験いただくコンテンツです。
玉名市のPLATEAUのデータは、LOD1、つまり箱型のモデルになっています。そのため、画像のように外側形状だけの建物データしかなく、アイレベルで見ると粗い見た目になってしまっていました。
そこで当社のスタッフが熊本まで行き、現地で取材して作り込んでいくという作業を行いました。画像の上の写真が現地の写真で、下が完成したモデルです。実際に現地に行ったことで、とても再現度の高いモデルになりました。
こちらも動画のスクリーンショットです。表面上は作り込んでいるように見えますが、見えていない部分は箱モデルになっています。全て作り込むと時間もコストもかかってしまうため、必要な部分の町並みだけを再現しているかたちです。
画像は、VRの映像のスクリーンショットです。実際に体験してもらった住民の方からは、「防災意識の向上に役立った」や「とてもリアルなコンテンツだった」という感想をいただきました。
おわりに – 今後の動向について
今回のタイトルの「その未来」の部分について話をしていきます。建物3Dモデルは、箱のモデルや建物形状、テクスチャモデル、詳細モデルと詳細度は異なります。その建物3Dモデルの活用方法も、3dsMaxやUnity、UE、Cesiumなどさまざまです。
アウトプットとしては、映像コンテンツやCGパースにするお客様がほとんどだと思います。一方で、最近ではVRで見せたいという依頼をされることも多くなりました。熊本県玉名市様の実績もVRだったため、その1例になります。そのため、今後は映像やCGのパースだけではなく、建物3Dモデルは他のことでも使われるということを考えて、取り組まなければいけないと考えています。
現在、当社で制作中のREAL 3DMAP TOKYOのデータをUnityに持っていって最適化するデータというのを作っています。画像にある通り、まだ名称も決まっていない制作中の案件です。
アセット販売について
最後に、最近当社で一般販売を始めた商品を紹介させてください。去年から植栽データを一般販売していて、3dsMaxやFBX、Cinema4Dなどに対応しています。
植樹には、日本で植わっているようなさまざまな種類があります。当社が不動産建築系で使用している植樹のデータをそのまま販売しているため、きれいなデータになっています。
CGtraderやTURBOSQUIDで販売しているため、興味がある方は覗いてみてください。
本日はありがとうございました。
建築ビジュアライゼーション MeetUp第六弾 ラインナップ
- 01.Twinmotion 2023.1新機能紹介(アルファコックス)
- 02.オンラインワークスペースMiroのご紹介(ミロ・ジャパン)
- 03.BIMの活用で実現した緻密で複雑なアートワーク(丹青社)
- 04.フォトリアル3D都市の構築とその未来は(キャドセンター) ←今ここ!