2023年11月10日(金)に開催されました、株式会社Too主催のデザインイベント「design surf seminar 2023 -デザインの向こう側にあるもの-」より、「拡張する空間概念 地中から空中まで」のセミナーレポートをお届けします。
協力:一般社団法人 日本空間デザイン協会(DSA)
一般社団法人 日本商環境デザイン協会(JCD)
登壇者:
多摩美術大学|環境デザイン学科教授・一級建築士
湯澤 幸子 氏
Degins JP株式会社|代表 ・JCD 日本商環境デザイン協会理事長・一級建築士
JCD 日本商環境デザイン協会|理事長
窪田 茂 氏
日本空間デザイン協会|理事
株式会社乃村工藝社|コンテンツ・インテグレーションセンター所属デザイナー
津山 竜治 氏(ファシリテーター)
日本空間デザイン賞のWebサイトはこちら:
https://kukan.design/
はじめに – design surf(デザインサーフ)という言葉について
津山:
今回のセミナーのお話をいただいて、最初に「デザインはサーフできるのか」ということを考えました。そこで、私のデザイナーでサーファーの友人に「サーフィンとデザインは、どういう関係性がある?」や「サーフィンが上手いとデザイン上手い?」などの素朴な質問をしました。すると、「関係性はある」と意外な言葉が返ってきました。
「良い波がどこにあるのか分かる嗅覚がある」人が、良いサーファーだと言います。そして、それはデザインにも共通する部分があるとのことでした。もう1つ、「良い波には人が集まりがちですが、良いサーファーは自分だけの波を見つける嗅覚がある」という話もありました。
私たちは日本空間デザイン賞の審査をやったのですが、やはり良い波があったように思います。新しい波のような、次の兆候を一緒に発見できたら良いなと思っています。
日本空間デザイン賞とは?
窪田:
今年の日本空間デザイン賞の審査委員長を務めた窪田です。まずは、日本空間デザイン賞について簡単に説明します。日本空間デザイン賞とは、私が代表を務めているJCD(日本商環境デザイン協会)とDSA(日本空間デザイン協会)が、それぞれ長い期間に渡って開催してきたアワードを合併して作った賞のことです。
Webサイトには、「日本空間デザイン賞とは、日本空間デザインの価値を未来へつなぐために設立された日本最大級のデザインアワードです。社会が複雑化する中、人々の価値は物の豊かさから心の豊かさへと変化し、多くの課題と向き合っています。この社会の多面的な問題をデザインの力によって解決に導き、希望あふれる未来を切り開くことが日本空間デザイン賞の使命です」と書いてあります。
日本空間デザイン賞は今年で5年目でしたが、今回の応募数は779作品でした。コロナ渦でプロジェクトが減ってしまったと思いますが、それでもこれだけの数が集まりました。全部で11カテゴリーありますが、それぞれのカテゴリーごとに金・銀・銅の賞を出しています。その金賞の中から『KUKAN OF THE YEAR』を3つ選出しました。今回紹介するのは、KUKAN OF THE YEARと金賞、あとは今年新設した特別審査員賞です。
今年のデザインアワードでは、タイトルにもある「拡張する空間概念」が色濃く出たと思います。こういう作品が大賞を取るのかと私達も思ってしまうようなものもありましたので、その辺も踏まえつつ、今のデザインの潮流が少しでも皆様に伝われば嬉しいです。では、順次紹介していきます。
作品紹介|KUKAN OF THE YEAR
星野神社 覆殿・本殿
窪田:
まずは1つ目のKUKAN OF THE YEARを受賞した作品です。日本空間デザイン賞以外に建築関係の賞も取っていますが、見た目は少し地味かもしれません。
窪田:
星野神社という古い神社の本殿に対し、本殿を囲う建物の覆殿を作ったものです。古い建物の土台を補強した上で、覆殿の構造体もまとめつつ伝統的な技術も使うといった点が、非常にシンプルで美しいという評価を得て大賞となりました。
湯澤:
この空間デザインアワードに応募するのは、デザイン業界の方やデザイナー、アーキテクトの方達が大多数を占めます。一方で、本作品は宮大工の方からの応募でした。そこも個人的に面白いと思った点です。技術の継承のために、モノ作りを目指す人達に自分達の仕事を知ってもらう機会について熱心に調べたそうです。そこで日本空間デザイン賞にたどり着いて応募したというお話でした。
湯澤:
日本空間デザイン賞の主催側からしても、この賞の社会的意義を正しく解釈してもらって、その結果裾野が広がっているという実感をすることができました。モノ作りを目指す人達に今の仕事をきちんと伝えていくために応募されたというところも、今回の評価対象の1つになったと思います。
Sumu Yakushima ~Regenerative Life Studio~
窪田:
次の作品は、実際に屋久島に建っている住宅です。
窪田:
写真は少し分かりにくいですが、これも受賞のきっかけになったものです。これはデザインなのかという意見もありますが、空間という概念が地中にまで及んでいることがとても印象的でした。
屋久島は本当に緑が豊かな場所なので、建物を建てる際には自然を壊してはいけないという課題があります。そのため、自然との寄り添い方や自然と建物の共存方法を本気で考える必要がありました。地中に埋まっている生物や水脈、菌などにダメージを与えずに、むしろ建物を建てることでより強固にする方法を考えて設計したとのことでした。
焼いた地元産の杉の杭を打ち込んで割栗を置くのですが、割栗の中にわざと葉っぱを詰めています。葉っぱが腐って出てきた菌がまた養分に変わって、そして植物がまた育っていく。そういった連鎖によって杭そのものが強固になり、建物も強くなっていくという考え方で作られたそうです。建物を建てる際、地中の生命のことまで考えることはあまりないと思います。そこまで考えた建物という点で話題になり、大賞という評価になった作品です。
興味がある方は、下記URLにアクセスしてみてください。
https://sumu-life.net/ja/
湯澤:
今年夏にヴェネツィア建築ビエンナーレに行った際に気付いたのですが、世界のアーキテクト達が語っていることの中から「ビルディング」という言葉がほとんど無くなっていました。一方で、農業のイベントなのかと思ってしまうほどアグリカルチャーな、土壌の話がコアになっていました。
これは、生命体としての地球という認識がアーキテクトの世界での潮流になっているということです。作ることによって世界にどのように関わっていくのか、好循環を生み出していくのかということが、今最もホットな話題になっているようです。この作品は、その実例として大賞にふさわしいという評価になりました。
GOLDWIN PLAY EARTH PARK TOYAMA「風の遊具」
津山:
これは、スポーツウェアメーカーのGOLDWIN様の作品です。「スポーツ以前に、人が遊ぶことの中に未来へのヒントがあるのではないか」というテーマで作ったイベントがありました。そのイベント会場の中にはさまざまな遊具があり、水や土、風、火などの地球の元素をテーマにしたものもありました。
津山:
写真にある塔のようなものが、本作品で特に評価された風の遊具です。
津山:
太陽の熱によって起こる上昇気流で、子どもたちが円錐形のおもちゃを飛ばして遊んでいます。
湯澤:
今回のテーマ「地中から空中まで」の要素を含んでいる作品だと思います。地球上にある太陽の熱や空気などの目に見えないものを使い、空間の概念を拡張しているということがとても面白いです。重力から解放されて上空へ上がっていく不思議さは、子供だけでなく大人も楽しむことができます。こういった時間と空間がもたらす驚きも高く評価されました。
窪田:
今年大賞を取ったのは、「文化を守るためのもの」、「地中のことを考えたもの」、「自然現象をうまく取り込んだ遊び心があるもの」という3つの作品でした。このデジタル時代に、全くデジタルと関係のない作品が賞を取っていることが分かります。
根本的な大事にすべきことや感じるべきことをうまく表現されている作品が大賞を取ったことが、今回の日本空間デザイン賞の今までとは違う傾向だったと思っています。結果として、そういうものに審査員の方々が強く反応したということになります。
地球や自然についての考え方や寄り添い方が、デザインにとっても重要になっていると捉えていいのではないでしょうか。
作品紹介|KUKAN OF THE YEAR RUNNER-UP
陸前高田市立博物館
津山:
次は、準グランプリとして審査員の方々からも評価が高かった作品です。
窪田:
例年、KUKAN OF THE YEARには3つの作品が選ばれています。本作品、陸前高田市美術館博物館は最後の4作品まで残っていたのですが、最終的には大賞には選ばれませんでした。そこで、急遽今までは無かった準グランプリのような立ち位置である「KUKAN OF THE YEAR RUNNER-UP」を新設しました。
窪田:
陸前高田市にあった博物館が津波で壊されてしまったので、そこで展示されていた作品を拾い集めてきれいにし、再展示したというものです。
「無くなってしまったと諦めてしまえばそれでおしまい」ということで、1つずつ展示物を集め、もう一度きれいにして再び展示する。展示することで、陸前高田市の記憶を繋いでいこうという考えで作られた美術館でした。デザインや建築のあり方、ディスプレイ方法などが、陸前高田市らしさをうまく表現できているとして評価されたプロジェクトです。
作品紹介|GOLD
エキシビション、プロモーション空間|Sony Park展 KYOTO
津山:
ここからは、GOLDの賞を取った作品を紹介していきます。
湯澤:
これは京都にある新聞社の印刷工場の跡地で行われた、6組のクリエイターによる「体験を展示する」というイベントです。ある種、この場所ならではのサイト・スペシフィック・アートの展示だったと思います。
湯澤:
とてもインパクトのあるこの場所でなければできない空間表現ということで、日本空間デザイン賞にふさわしい作品として評価されました。
窪田:
写真にあるようにいくつかの箱が置いてありますが、それぞれで違う音楽が聞けるようです。
湯澤:
工場跡地というアナログな記憶が残っている場所でデジタルなことを行なうという見せ方も、評価されたポイントだったと思います。
ショーウインドウ&ビジュアルデザイン空間|SWEET YARN
湯澤:
「大きな空間からウインドウという小さな空間まで」ということで、これはまさに小さいミクロな空間へ誘うものでした。
銀座通りという日常的な街路空間から、無限の広がりをミクロの世界の中に見つめることで、非日常な世界へ誘われてしまうという作品でした。
この手仕事の繊細さは、作っている人の息づかいまで感じることができます。その瞬間が公共の空間を歩いている時に訪れるという、その不思議さがショーウィンドウの魅力でもありますし、醍醐味でもあります。この作品では、テーマや手仕事の細かさが評価されました。
サービス・ホスピタリティー空間|Renovation of old Hui-style buildings in Longwu Hangzhou
窪田:
これは、中国にある古い建物をリノベーションしたプロジェクトです。中国でもリノベーションが流行していますが、本作品では古さとモダンさをうまく組み合わせています。海外の作品が、リノベーション関係で金賞を取ったのは初めてでした。
とても古い建物だと思いますが、それらを補強するための床や家具などは全部白で作られていて、形もマットで造形的なデザインになっています。
個人的には、その潔さが好きです。写真を見ると白い壁も補強されている感じですが、残すところは思い切って残して、直すとこはしっかりと直しています。さらに、それをデザインとして昇華していて、何とも言えない雰囲気が残っているところもデザイン的な素晴らしさとして評価されました。
大規模商業空間|EHIKOTO 臥龍棟・酒楽棟・地下蔵
窪田:
これは、日本酒で有名な『黒龍酒造』の体験型施設です。建物は合計3つありますが、今回はその3つ全てで応募していただきました。
窪田:
それぞれが、非常に明快なコンセプトを持ってデザインをされています。まるで宙に浮いたように風景を眺められる場所もあれば、お酒を寝かしている地下の蔵や食事やお酒が楽しめる体験スペースもあります。
イベントが開催できるスペースもある複合施設なのですが、どれもデザイン的に美しく、「実際に行ってお酒飲まないといけないな」とついつい思うような場所でした。
食空間|% Arabica Riyadh Roastery
津山:
本作品は、サウジアラビアのリヤドにある建物です。
窪田:
写真が白く飛んでいて見づらいですが、『Arabica』という名のコーヒーショップです。中国のコーヒー豆ブランドだと思いますが、世界中に店舗を広げています。デザインしているのは日本人で、毎年応募してもらって賞を取っていましたが、金賞は今年が初めてでした。
窪田:
今回のデザインはスタジアム形式で、劇場型カフェと書いてあります。そして、ほとんど白と茶色の2色で構成されているため、とても明快です。また、コーヒー豆の袋を飾るのも彼らの得意技の1つで、臨場感が生まれ、なんだか楽しそうに見える空間を創出しています。
奥のロースタリーでコーヒー豆を実際にローストする様子を見ながらコーヒーが飲めるという、体験型に近い施設です。
津山:
手前側のカウンターではバリスタがコーヒーを入れるところも見せ場にするという、そんな劇場的なデザインになっている作品です。
ショップ空間|花 西 海
湯澤:
藁葺き屋根で手前には石が積んである、庭師の方がオーナーのショップです。ショップのデザインを評価する際には、いかに効率よく目的に合った形で作られているかで評価しがちです。しかし、本作品では一見無駄に見えることも全てやっていることが審査員に評価されました。
湯澤:
手間を惜しまず、地元のありふれた材料を使って面白いものを作ろうというコンセプトのショップです。実際にオーナー自身が作って、完成後は周辺地域のコミュニティになりました。非常にローカル色が強い作品ですが、これも商業施設やショップのあり方の1つだろうということで選ばれました。
窪田:
構造的にも工夫されていて、柱にはコンクリート、梁には木材を使っています。外壁側はサッシも何も入っていないことで屋根の浮遊感があり、こだわりを感じるポイントです。
オフィス空間|水道橋のオフィスビル
窪田:
これは賃貸オフィスビルの作品です。
窪田:
写真のダイヤグラムにある通り、オフィスビルにバルコニーがあるのは一般的ではありません。本作品では余った敷地をテラスにして、自由に使える場所にしています。
窪田:
オフィスビルやマンションを設計する際、フルボリュームで建物を作るのが一般的です。それでも敷地が余ることはある中で、余った敷地をできる限り床面積に算入しないように計算して設計されています。
窪田:
これが今のオフィスに求められる楽しさや使いやすさ、居心地などを補完していくプロジェクトということです。
作品紹介|審査員特別賞
佐藤 可士和 賞|LINE Seed JP Table
津山:
ここからは、今年から設けた「審査員特別賞」の紹介です。
窪田:
デザインアワードは審査員が1人ではないため、多くの票が集まった作品が賞を取りやすい傾向があります。しかし、中には「私はこの作品に賞をあげたかった」という意見もあったため、そういった作品にも賞を与えるためにこの賞を新設しました。
湯澤:
これは、LINE株式会社の作品です。言葉やコミュニケーションを大事にする企業ということで、LINE独自でフォントを開発しています。そのフォントを使うことで、オフィスのカウンターが写真のようになっています。非常にシンプルですが、企業アイデンティティが明確に表現されていることが評価されました。
木田 隆子 賞|Nature Study: MIST
津山:
こちらは、we+が行なった研究の展示会です。
窪田:
ここでは常にさまざまなことを研究しており、現象として物事を捉えたことを1つの形にして作品にしています。
窪田:
今回はその事象が霧でした。「霧はどのように発生するのか」や「霧とはどういう物質で構成されているのか」などをさまざまな場所に行って調査し、画像のように調査内容を展示しています。霧の発生について、再現のためにショーケースの中に霧を発生させるという展示物もあります。
窪田:
穴が開いている中には霧が立ち込めていて、実際に手を入れることもできました。中には照明が入っていて、霧が光ることでふわふわと動く様子が分かるという作品でした。
アストリッド・クライン 賞|LIBRARIES|鎖でつながれた本と本棚と太陽
津山:
こちらは、タイトルが非常に詩的な作品です。
窪田:
応募時の解説文を読んでもタイトルの意味までは分かりませんでしたが、Webサイトにアクセスして確認すれば理解できました。昔は本がとても貴重だったため、盗まれないように鎖で繋がれていたそうです。
窪田:
そこで、太陽の近くに本棚ができたことで本を読めるようになって、図書館ができていったというストーリーを表現したタイトルとのことでした。
このプロジェクト自体も、本と太陽、本を読むという行為を1つの形として見せています。オフィスビルか倉庫などの途中階のフロアだと思いますが、とにかく太陽光が入ってくる場所でした。場所や時間でも変わりますが、それぞれの場所によって体験する方法を変えてデザインしたと書かれていました。
佐藤 寧子 賞|AQUA⁺ TANK
湯澤:
これは、複数の工場設備が合わさったプラントです。
湯澤:
エネルギー系や化学系、産業系など、さまざまなプラントがあると思いますが、その数あるプラントのスペースを使い、水中に浮遊しているクラゲの映像がずっと流れています。そうすることで、プラントのタンクを大きな水族館のように見せています。
湯澤:
プラントは社会を支える大事なインフラですが、黒子的な存在であるため表になかなか出てきません。そういった表に出てこないものを展示することによって、「社会と繋ぐ」ということを意識したようです。表に出ない世界を表に出していくということが、空間デザインの1つの働きということも審査員に評価されたのだと思います。
田中 仁 賞|Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2022 うみのハンモック
次の審査員特別賞に移ります。
津山:
こちらは、海で問題になっている廃漁網を使った作品です。廃漁網をリサイクルしたネットを使って、海のアトラクションのような遊具を作っています。
窪田:
写真の通り、子供達のいい遊び場になっています。魚を捕まえるための漁網が、今度は子供達を捕まえたという感じです。田中仁氏は株式会社ジンズホールディングスの代表取締役ですが、非常に芸術的なアートや建築に造詣が深い方なので、審査方法もとても面白かったです。
内藤 純 賞|Tree says「」
窪田:
本作品はとてもアーティスティックで、表現も難しいとこもあって、私も改めて調べ直しました。
窪田:
生きている木の中では小さい音がしていて、その音を拾って可視化して光らせたり、音を聞いたりする体験ができる展示作品ということでした。
湯澤:
こちらも、まさにサイト・スペシフィック・アートという感じの作品です。
森井 良幸 賞|坂本織物
窪田:
本作品は商業施設ですが、審査したインテリアデザイナーの森井氏は、「本作品は店舗デザインのことをよく知っている人が作った作品だ」と言い切っていました。
窪田:
素材の使い方や光の使い方などが、インテリアデザインをマニアックにやっている人達からすると、すごく響くデザインになっていると言っていました。
湯澤:
こういったマニアックな作品は、写真での表現では限界があります。そういう意味も含めて、森井氏は個人賞として評価したのだと思います。
ティノ・クワン 賞|Purple Mountain School Jaco Pan
窪田:
ティノ・クワンさんは、世界中の有名なホテルなどを手掛けている香港在住の照明デザイナーです。タイトルにはスクールと書いてありますが、実際にはレストランだそうです。
津山:
台湾にある山に囲まれたコートヤードのレストランです。
窪田:
写真の通り、照明デザイナーの方が賞を与えていますが、照明器具は1つも付いていません。個人的には、そこも面白いと思いました。照明器具はもちろん必需品ですが、デザイン的には無くて済むのであれば無い方が見た目がすっきりして美しくなります。そういった照明デザイナーのジレンマのようなものが表れていて、すっきりとしたデザインに賞をあげたのかと個人的に考えています。
津山:
海外の作品ですが、とても日本的なデザインだったことも印象的でした。
水野 学 賞|サントリー天然水 北アルプス信濃の森工場
津山:
サントリーの工場に併設された体感ランドスケープと展示空間で、とても楽しそうな空間でした。
中村 拓志 賞|”Duct Mimicry” Ambient Digital Signage
窪田:
少し説明がしづらい作品ですが、とても面白いです。『ダクトミミクリー』ということで、ダクトの形をしたサイネージを設置してあります。
窪田:
写真の中心にある緑色の文字が書かれている部分はダクトではなくて、映像装置になっています。その装置を使ってニュースや天候などの情報を流していますが、普段はダクトの映像を流すことでダクトに擬態しているというわけです。
窪田:
アイデアがとても面白いということはもちろんですが、この空間の中になければ逆に意味がないというその面白さと発想が評価されました。下記URLでは動画を観ることができます。画像では伝わりづらいすごさが動画だと分かりやすいので、時間があればぜひ見てみてください。
https://digital-signage.jp/openevent/award/dsa2023-6
湯澤 幸子 賞|UNIQLO LOGO STORE E
湯澤:
こちらは私が選んだ作品です。
湯澤:
当たり前に見慣れている『UNIQLO』ということもあって、デザインの賞ではかえって評価されないことがあります。今回は個人賞があるということで、私が選ばせてもらいました。
UNIQLOは物・サービスを売るショップということがまず原点です。そしてそれだけでなく、ショップは暮らしと人を支えるライフインフラであるということを真っ当に取り組んでいるところが評価点でした。
良いものを適切な価格で売るための効率や合理性はもちろんですが、今は循環社会としてリサイクルまで社会の仕組みそのものを移行していっています。そして、そのサステナビリティに対してリーダーシップを発揮するショップとして、日常的でありふれてしまっています。
相対的に、空間デザイン賞は唯一無二の作品に集中しがちです。そこで、あえて私たちのライフインフラとして当たり前すぎて見えなくなっているものにフォーカスすることも空間デザイン賞の使命かなということで、個人賞の対象となりました。
作品紹介|SILVER PRIZE
住空間|苅田の住宅
津山:
ここからは、ゴールドではありませんでしたが人気が高かったシルバーの2作品を紹介します。
津山:
冒頭に紹介した大賞を競った作品で、審査会までは本作品がダントツで1位でした。非常にユニークなこの住宅は、構成や造形性、住み方へのチャレンジとしてとても評価が高かったです。
湯澤:
これは形状だけでなく、太陽が24時間回ることで光り方が変わるということにおいても理にかなっています。その点においても非常に完成度が高いと評価はされましたが、今回は屋久島の方に集中したという結果になりました。
エンターテインメント&クリエイティブ・アート空間|時計の捨象
津山:
シルバーの作品ですが、もう1つ紹介させてください。
津山:
セイコーの展覧会の作品です。写真がホワイトアウトしてしまい、見にくくて申し訳ありません。
津山:
ややわかりにくいですが、水盤の上に時計の秒針と文字盤が浮いています。これは、「時計としての機能を取り去った後に何が残るのか」ということを問いかけにしたアートインスタレーションでした。
窪田:
画像だと判断できませんが、実は時計の長針と短針が動きます。その動きに合わせて時計のフェイスのようなものも動くのですが、それがとてもかわいいです。
津山:
結局、機能を取り除いた後は生き物のようになってしまうところが非常に面白い作品でした。
その先へ(Q&A)
津山:
最後にお2人に質問です。今回も多くの応募があった中で、賞を取った作品と落選してしまった作品がありました。その違いについてと、大賞になる作品とそうでない作品の違いについても教えてください。
湯澤:
今年の作品に関しては、これから先の未来や将来へ向けてのメッセージ性が評価されたと考えています。地球上に生きていることを再認識した上で、どんなクリエーションができるのかということです。そして、それが持続的に人から愛されるかたちで残していくことに対して、真摯に取り組んでいる作品が注目されました。
今までは具体性の見える完成度やアイデアなどが大賞に上がっていましたが、今回は目に見えない、写真だけでは読み取れないものが評価されました。日本空間デザイン賞のコンセプト、「デザインの力で人々の感動を起こして社会を豊かにしていく」ということに近い部分があったと思います。
窪田:
近年は社会性の強い作品が選ばれやすい傾向にありますが、今年は社会性を超えて地球について考えていくところまで到達しました。これから先も地球を大事にしていくことは考えていかなければいけないですし、デザインそのものの美しさや表現方法などにもまだまだ可能性があると思っています。今後も、日本空間デザイン賞として美しいものはしっかりと選んでいきたいと思っています。
日本空間デザイン賞はこれからもずっと続いていきます。ぜひ応募できるものがあれば、応募してください。何が評価されるか分からないため、とにかく応募するということがまず大事だと考えています。
3次審査は公開されてます。公開審査での先生達の議論を聞くだけでもとても面白いです。そこには、考え方や注意しているポイントに気付けるチャンスがありますので、興味がある方は審査の段階から注目していただけるとありがたいです。