2024年11月25日(月)に開催されたKviz特別セミナー『Mir来日!「建築ビジュアライゼーションの未来」』より、当日のイベントレポートをご紹介します。
濃密な内容のため、2部構成のレポートでお送りします。
vol.1は『The Mir Way – Mirの哲学とチームビルディング』です。
vol.2は、こちらをご覧ください
⇒ vol.2: 良いイメージの定義とその作り方 – プロジェクトを通して
イベント概要
タイトル:Kviz特別セミナー『Mir来日!「建築ビジュアライゼーションの未来」』
主催 :株式会社Too
協賛 :オートデスク株式会社
登壇者 :Mir創業パートナー Trond Greve Andersen(トロンド・グレヴ・アンダーセン)氏
場所 :秋葉原コンベンション 大ホール
↓当日の模様を映像化し公開しております。合わせてご覧ください↓
詳しいイベントの詳細は「株式会社Too」のWebサイト告知ページをご覧ください
⇒ too.com
登壇者とMirの紹介
私はトロンド・グレヴ・アンダーセン(Trond Greve Andersen)です。そして、写真の左下にいるのは私のベストフレンドで、犬のバルー(Baloo)です。
建築ビジュアライゼーションの会社、MirのCEOとして、今日はこのセミナーに登壇します。本日は、私たちがイメージを作成する際の哲学について、そしてMirでイメージを作成する際の独自の方法について説明していきます。
写真中央にいるマッツ・アンデルソン(Mats Andersen)とともに、現在Mirを運営しています。この写真は、夏のオフィスの外で撮影したものです。
2000年頃、私たちはアートスクールで出会いました。当時は若く、大きな夢を抱えながら二人でアイデアを共有していました。「世界最高のレンダリング会社を作ろう」と、意気投合したのです。20代の頃から始めたこの道のりですが、今では私も45歳になりました。人生の半分以上、マッツと一緒にイメージを作り続けてきたことになります。
現在、Mirのチームは14名編成となっています。これは一部のメンバーの写真です。才能あふれる素晴らしい人たちが私と一緒に仕事をするためにノルウェーに集まってきてくれていることを、とても嬉しく思っています。
Mirは、ノルウェーの私のホームタウンであるベルゲン(Bergen)に拠点を置いています。ベルゲンは自然に囲まれた場所で、山や森、そして海に恵まれています。夏は緑豊かで暖かく、冬は寒さと白銀の世界が広がる、とても美しい環境です。このような環境を理解していただくことは、Mirを理解する上でも非常に重要です。
私は自然の中で育ちました。その影響もあって、仕事上でも自然や人生を表現する上で、私の出身地であるノルウェー的な観点を大切にしたいと考えています。子供の頃から、世界を理解する手段として、絵や文字を書くことを自然と行ってきました。
自然、そして自己表現は、私の中を流れる川のような存在です。この性格や自己表現、そして自然の組み合わせを活かして、いつか仕事に繋げたいというのが私の夢でした。
建築ビジュアライゼーションの分野で、自己表現を実現するのは非常に難しいことではありますが、不可能ではありません。そして、それを追求することに大きな価値があると信じています。
私の中の隠されたさまざまな瞬間を表現する機会は、多くはないですが確かに存在します。例えば、子供の頃の思い出にある雪や冬の情景がその一例です。屋外で長い時間を過ごした後、家に帰って体を温める瞬間の心地よさは、今でも鮮明に心に残っています。
時代の変化
ここからは、少しテーマを変えます。
このトロールたちは、私の子供たちが育つ過程でテレビなどで見るトロールです。一方で、私が子供の頃にはテレビはありませんでした。
そのため、私自身が子供の頃のトロールというのは写真のような感じでした。自然の中で育ちながら、おとぎ話の世界で成長したのです。こうした経験は、私の仕事にも反映されています。
こちらは一例ですが、私の同僚の一人によるスケッチです。
同じプロジェクトだとしても私がスケッチをすると全く違うかたちで、トロールのような仕上がりになってしまいます。スケッチを作ったときには全くそんなことは意識していなかったのですが、どうやら私の頭の片隅にあの頃のトロールが常に存在しているようです。
私はいつも、ペンと紙を使って座って仕事をしたいと考えていた人間でした。しかし、時代の変化と共にコンピューターが台頭してきた結果、CGアーティストになっていました。
私にとっては、上の写真のようにイメージを作成することは瞑想するようなものです。
この写真はマッツが作成したものですが、彼も私と同じ感覚を共有しています。これは、私の出身地の町にあるコンサートホールです。
Mirでは、美について語ろうとしています。自然の中に見られる荒々しさや厳しさは、根本的に人間的であると言えるでしょう。こうした経験を通じて、人々が建築物を見る視点を変えるお手伝いをしたいと考えています。
なぜなら、美に対する考え方が変わることで、人生はより豊かになると信じているからです。
Mirで作成する全てのイメージが、このようなおとぎ話的なテーマを持っているわけではありません。
ビジネスとして運営している以上、常にトロールの世界を描くだけではありません。それでも、私たちは各シーンを別の視点で楽しんでもらえるように工夫しています。どのプロジェクトにおいても、「世界は幻想的なものである」と感じてもらえるような表現を目指しています。
こちらは、デンマークの建築家のドルテ・マンドラップ氏(Dorte Mandrup)によるカナダにある作品です。
私は、Mirで働くアーティストには自分たちの内なる声を見つけてほしいと私は考えています。うまくやれば、仕事は瞑想のように活用することができます。そして、運が良ければ仕事を通じて幸せになり、さらに自身を強くすることができると信じています。
例えば私のクライアントが私の一番気に入っているイメージを好きになってくれることはほとんどありません。最初から気に入ってくれる人は非常に少ないですが、それは問題ではないと考えています。なぜなら、最高の仕事というのは好き嫌いが分かれるものだからです。たとえ気に入られなくても、自分の仕事に誇りを持つことはできると考えています。
事例紹介
ここからは、私のことをあまり知らない方に向けて、過去の仕事の事例をいくつか紹介していきます。見てもらえれば、必ずしもトロールのような世界観ばかりではないことがお分かりいただけると思います。
私たちが得意としているプロジェクトは、何らかの形で自然に関わるものです。
私たちは、観察した上でイメージを作成します。自分が見せたいものや瞬間を切り取り、パターンを見出していくのです。
また、驚きを与えるようなものも好んでいます。時間を止めることで、イメージが魔法のような瞬間を全てを完璧にしてくれるのです。
強力な印象を与えるイメージがあれば、自分がまるで他の場所にいるような感覚を得られるでしょう。そのためには、しっかりとしたパースとテクスチャのある空間を作ることが重要です。いかにその場にいるような感覚を持ってもらえるかを念頭に、加工・処理を行っています。
Mirのイメージとして重要な要素の1つは、「全てを見せない」ということです。一部だけを見せることで関心を引き、「全体はどうなっているのだろう」と想像させることが大切です。
あまりに多くを見せようとしたり、語りすぎたりすることは、建築ビジュアライゼーションにおける大きな間違いだと言えるでしょう。重要なのは、見る人に「もっと見たい」と思わせることです。
ちょうど日本にいるタイミングなので、『Not a Hotel』のプロジェクトをたくさんお見せしています。このプロジェクトを通じて、日本とノルウェーのデザイン言語が非常に似ていると感じました。
自分で作ったイメージについて検証したいと思うときは、そのイメージを見ながら「ここに自分が旅行したいと思うかどうか」を問いかけてみると良いと思います。
『The Mir Way』 – 私たちの哲学と取り組み方
いくつか過去の仕事を紹介しましたので、ここからは私たちの仕事の取り組み方について話していきます。言語化するのは少し難しいのですが、改めて挑戦してみます。
Mirで行っている仕事の裏には、私たちの哲学があります。この哲学は『The Mir Way』と呼ばれ、私たちの事業計画そのものでもあります。
これが私たちのロゴです。「自分のハートでものを見る」ということを表しています。ロゴの上から出ているのは、熱意やエネルギーを象徴しています。
建築家というのは、「クリエイティブでハッピーになりたい」という思いから目指す職業だと思います。一方で、建築というビジネスはとてつもない力を持ち、膨大なエネルギーを消費するものです。それはまるで重力のような存在です。
建築の中心に近づけば近づくほど、その力はますます強くなっていき、ブラックホールのように引き寄せられていきます。注意しなければ、その力に飲み込まれて、自分自身を犠牲にしてしまうこともあるのです。
こうした危機から自分を守るためには、統一性や均一性といったものを自分の武器として身につける必要があります。期待されることをそのまま遂行し、安全なものばかりを生み出していれば、大きな問題に直面することは少なくなるでしょう。
しかし、常に勇気を持ち、他とは違うことをしたいと望む勇敢な建築家も存在します。私たちMirは、そういった建築家たちを支援したいと考えています。
そのような引力と闘い、建築家たちを自由にするために、私たちはできる限りのことをして共に戦います。その力から抜け出すことができれば、私たちは星のように輝けるのです。
Mirでの私の仕事
Mirでの私の仕事は、もはやイメージを作成することだけではありません。私がチームや自分を頼ってくれるアーティストたちをサポートすることで、Mirではさらに多くのことを成し遂げられると考えています。
私はマネージャーやトレーナーとしての役割も担っています。アーティストたちが最大限の力を発揮できるように支援し、Mirで生み出される全てのイメージが「Mirのイメージ」として認識されるレベルに到達するよう尽力しています。
アーティストにはインスピレーションが必要です。自分たちがいかに素晴らしい存在であるかを、常に思い起こさせてくれる支えが必要なのです。同じ方法で同じことを繰り返して停滞しないよう、多くの人に手を差し伸べています。
また、Mirでは良いクライアントのために戦っています。クライアントをより深く理解するために各地に出張し、彼らの話を直接聞きに行きます。そして、Mirとのコラボレーションを通じて、最大限の成果が得られるよう支援します。その過程を経ることで、多くのクライアントが仲の良い友人になりました。
さらに、チームの新しいメンバー探しも私の大事な役割です。チームが健全であり続けるためには、成長が必要です。そのため、特殊なスキルを持つ人や、チームのバランスを取るために必要な個性を持つ人を探しています。
そして、Mirの美的な特性の管理も私の仕事です。常に最高クラスのクオリティを維持するために、私たちが一生懸命努力していることを伝えられるよう努めています。
オフィスの中では、誰が誰の隣に座るべきかなどの細かいことに気を取られない環境にしています。オフィス全体を見渡せば、その環境がどのように自分を表現しているかが自然と分かるはずです。要するに言いたいのは、アーティストというのは何もない無の状態で仕事をしているわけではないということです。
主な問題やストレスについてばかり話してきたかもしれませんが、実は私の最も重要な仕事は、ストレスを取り除くことです。良い仕事をするためには、アーティストがリラックスした状態であることが不可欠だと考えています。
しかし、アーティストがあまりにリラックスしすぎると、今度はクライアントが心配になってしまいます。クライアントは、アーティストが心配している方が仕事を真剣に考えていると感じるからです。
これが始まると悪いスパイラルに陥ってしまいます。
そのため、アーティストには「自分からダンスを丁寧にリードしていくように、いかにクライアントに信頼してもらえるのか」それを模索するように教えています。
クライアントは不安を感じると、コントロールしようとする傾向があります。しかし、ほとんどの場合はクライアントはイメージの作り方を理解していません。Mirでは、この点について長い時間をかけて考えてきました。
こちらの2つのイメージに共通していることが1つあります。それは、クライアントが私たちを深く信頼してくれたということです。
クライアントをしっかりと理解していることを私たちが実証してきたおかげで、ダンスのリードを私たちに任せてくれるようになりました。その結果、自由に考えることができ、予期しないようなアングルや視点を実際に提案することができています。
私たちは「予期していない驚くもの」を探しています。クライアントも驚きを期待しているため、実際に驚かされると非常に喜んでくれるのです。
それこそが、この仕事の意義だと考えています。これまで、私たちが作ったイメージがクライアントの役に立つ場面を何度も目にしてきました。本当に良いイメージを作ることができれば、コンペで勝利を収め、名声や認知を得ることができます。それにより、プロジェクトの規模も大きくなり、スタッフや環境もさらに向上していきます。
クライアントの持つ純粋なアイデアをより良い形で表現することが、私たちの役割です。それが可能になれば、人々の関心をクライアント自身へと向けられるようになるのです。
vol.2へ続く
⇒ vol.2: 良いイメージの定義とその作り方 – プロジェクトを通して