本間氏は2008年にソニー社員としてシリコンバレーに赴任。2012年に楽天に転職をし、2016年にスタートアップ企業HOMMA, Inc.(以下HOMMA)を立ち上げた。2018年現在、日本のVCや企業、個人投資家から約12億円の資金調達を受けている。
さまざまな分野でイノベーションが生まれたシリコンバレーの中にあって、100年前から変わらないもの、それが住宅だという。一番生活に密着している住宅がなぜ変わらないのか?その疑問が事業を立ち上げたきっかけだ。
-なぜアメリカの住宅でイノベーションが生まれないのか?-
この答えから日本とは異なるアメリカの住宅事情が伺えた。まず、アメリカの戸建て販売で新築住宅は全体の11%のみ。うち90%が建売住宅だという。抱える課題は多く、同じホームビルダーであっても、家を作るコントラクターが違うため、計画地ごとに品質のばらつきがあったり、設計・デザインを外部委託するためデザインは売れ筋なものに偏りがち。さらにキッチンや水回り工事も、現場での施工が一般的なため工事期間も長期化する。また建築家がゼロから設計する注文住宅は、複雑で厳しい市の新築建設許可を取る必要があるため、カリフォルニアでは完成までに2~3年かかるのが常識で、経済的余裕のある層でないと実現が難しい。次々と出てくるIoT機器などは、メーカーとの長い付き合いを前提としたホームビルダーにとっては、さらなるメンテナンスを要するため導入には及び腰といった傾向があるという。
UXから家を建てる
例えば、Teslaは『作っている車」と『ユーザーに対する車の提供方法」を変えることでイノベーションを起こした。同様に『建てる家」と『ユーザーに提供する体験」を変えることでイノベーションを生み出せるのではないか? このような考えから、HOMMAはアメリカの市場において、イノベーティブなホームビルダーとして建売住宅事業の展開をはじめたという。
HOMMAの住宅開発の特徴は、まず理想とするライフスタイルを決めることだ。その後、土地の面積・形・予算を加味した上で、理想のライフスタイルに必要な間取りとデザイン、テクノロジーを組み合わせていく。いわば、デザイン思考のプロセスで、プロダクトとして住宅をつくるわけだ。
ラボからプロトタイプ、コミュニティへ
―――――今後、事業をどのように展開していく計画なのか?
「シリコンバレーはテック企業が多く、ターゲットとしているミレニアム世代の流入も多く、住宅需要が最も高い。シリコンバレーを皮切りに西海岸を中心に、2020年までにプロトタイプ住宅を建てる。その経験を元に、さらにコミュニティ住宅へと展開していく。
低所得者向けの住宅を含めて、アメリカでは700万軒が足りないといわれている。売り手市場のアメリカだからこそのチャレンジでもあり、正しい場所に正しい価格で正しい価値を提供することが重要」だと本間氏は言う。
今回、訪問した「HOMMA ZERO」はオフィス兼ラボとして、中古住宅をリノベーションし、さまざまなテクノロジーやデザインを試している。
そして、次の展開である「HOMMA ONE」はすでに始動している。カリフォルニア州Beniciaの土地を購入済みで夏までにプロトタイプ住宅「HOMMA ONE」のショールームを稼働させる予定だ。
併せて「HOMMA ONE」でのさまざまなリサーチを通じ、照明などの住宅設備や家電を管理できるアプリの開発や、住宅購入後に誰しもがやらなければならない、保険加入やメンテナンスなどのサブスクリプションサービスも今後展開していく予定だ。
なお、工数効率を考えた日本のシステムキッチンやシステムバス、スペース効率を考えた引き戸、日本の住宅に見られるデザインの新しさなど、これらはアメリカの住宅事情にも導入していきたいと考えている。
すでに、複数の日本の住宅設備や建材メーカーとパートナーシップを締結している。今後もアメリカの市場へ進出したいと考える、より多くの日本メーカーに参画を呼び掛けていく。
デザイン性と技術力をバランスよく融合し、日本のメーカーとのパートナーシップを拡大しながらアメリカの住宅事情に切り込むHOMMA。Kviz.jpでは今後も彼らの挑戦を追っていきたい。
- 第1回 シリコンバレー発、日本スタートアップ企業HOMMAの挑戦 ←今ここ!
- 第2回:井上亮氏に聞く、シリコンバレーで建築家としてはたらくということ(前編)
- 第3回:井上亮氏に聞く、シリコンバレーで建築家としてはたらくということ(後編)