2019年12月に開催しました「建築ビジュアライゼーションMeetUp 第四弾」。
本日より、こちらを全3回にわけて、レポートいたします!
本講演では、建築ビジュアライゼーション業界の現状と、そこから予想される業界の未来を皆様と共有させていただきたいと思っております。 そして、その未来に向けて3ds Maxはどのように対応していこうとしているのか。
もともと建築業界の制作に携わっていた立場から、制作支援に回った吉田さん。
そこで見えてきた現状についてまずお話をいただきました。
今日、建築ビジュアライゼーション業界は過渡期にあり、大きな変革を迎えようとしています。
今日お集まりいただいた皆さんは、建築ビジュアライゼーション業界に携わる方や学生がほとんど。定員数を上回る100名近くの来場者からも想像できるように、非常に熱量が高い分野になりつつあります。
6年ほど前の話ですが、私が所属するメディア&エンターテイメントの部門では、「CGプロダクション」、「コンシューマゲーム」、「モバイルゲーム」、「アニメ」業界のお客様が多くを占めており、「ビジュアライゼーション(建築・製造)」業界のお客様の数は、そこには遠く及びませんでした。
ですが、その後5~6年でこの業界は急激な盛り上がりを見せており、今や新規のお客様数は6年前の倍以上。直近の四半期では、「アニメ」や「コンシューマゲーム」業界を上回る数字を記録しています。
なぜ業界で盛り上がっているのか??
何故建築ビジュアライゼーションを始める人が増えているのか?
私自身、最初は単純に業界の需要が伸びているからかと考えていたのですが、調べてみると興味深いことがわかりました。
「建築ビジュアライゼーション業務を行う設計者」の数が増加していたのです。
もちろん、今までもそういった方はいらっしゃいましたが、ほんの数年前までは、設計業務と建築ビジュアライゼーション業務(パース制作など)はそれぞれ別々に作業者が存在し、役割がはっきり分かれていることが多くありました。
設計=2D、パース=3Dといったように、それぞれ専門性が異なるという、文字通り次元の違う壁が存在したからです。
しかし、近年の業界の大きな変化に伴い、その壁は設計者(2D)側の視点から見ると、比較的超えやすいものになりつつあります。
では、どんな変化があったのか。
①BIMの普及
まず1つ目に、BIMの普及があります。
BIMとは、設計業務をはじめ、建築ワークフローを大きく効率化させるソリューションです。弊社ではRevitという製品をご提供しております。
BIMには業務を効率化させる色々な要素がありますが、その中でも今回取り上げたいのが「3次元設計」です。
BIMを導入することにより、設計作業の過程で建築物の3DCGモデルが出来上がります。つまり、今まで3DCGに触れることがなかったような、2DCADで2次元の図面を作っていた設計者でも、簡単に3DCGのモデリングができるようになったというわけです。
BIMの普及が日本でも年々進んでいることは周知の事実かと思いますが、例えば、日本建築士事務所協会連合会が公開している調査結果によると、このBIMを導入している企業は全体の30%で、そのうちの約8割がここ5年以内にBIMを導入したと報告されています。(約6割が3年以内)
更に面白いのが、BIMを活用している方々の81.8%が、BIMをプレゼンテーション資料用に活用しているとの報告もあります。
これらの数字を見てみても、BIMの普及はここ数年で大きく進み、そしてそのデータは建築ビジュアライゼーションという分野でも大きく活躍しているというのがわかるかと思います。
②リアルタイム系エンジンの普及
2つ目が、リアルタイム系エンジンの普及です。
ゲームエンジンとか、リアルタイムレンダリングエンジンとか、名称は色々です。
「リアルタイム系エンジンとは何ぞや」という話をすると、話がややこしくなるので割愛しますが、これらのエンジンを使用することにより、静止画や動画、AR・VRや、インタラクティブ要素のあるコンテンツを作ることができます。
もともとは、ゲーム業界を中心に発達してきたツールですが、ここ数年これらのエンジンは建築業界でも普及が進んでいます。開発元各社も建築ユーザー向けのWebページを用意したり、建築でよく使われるような新機能を搭載させたりと、建築業界に向け、大きなアピールを行っています。
建築の分野でこれらのエンジンを使用する利点の一つに、「早く・簡単に・綺麗な」静止画や動画を作ることができるという点があります。特にこの「簡単に」というところがみそなんですが、つまりは、3DCGの知識があまりない方、今まで3DCGに触れてこなかった設計者の方でも、学習コストをかけずにビジュアライゼーションコンテンツを作ることができるという事です。
①BIM → 設計作業の過程で3DCGモデリングができる
②リアルタイム系エンジン → 簡単にビジュアライゼーションコンテンツが作れる
この2つの普及により、今多くの設計者の方がビジュアライゼーション業務に着手し始め、建築ビジュアライゼーションに携わる人の数は、年々増加しています。
ビジュアライゼーション専門職の仕事はなくなる??
さて、ここまでは、設計者がビジュアライゼーションを始めたことにより、建築ビジュアライゼーション業界の人口が増加しているという話をしてきましたが、もしかしたらご来場の方々の中には、「じゃあ、ビジュアライゼーションの専門職は仕事なくなるの?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。
誰でもパースが簡単に作れる世の中になったわけですから、そう思うのは当然かと思いますが、私は専門職の仕事がなくなることはないと考えます。現に私の目の前にいる皆さんは継続してお仕事されているわけですし。
ただ、なくなることはなくても、「求められること」が大きく変わってきます。これは、今の業界の流れを鑑みれば容易に想像ができます。
建築ビジュアライゼーション業界に限った話ではありませんが、今まで専門職が担ってきた仕事が、テクノロジーの進化によって、誰でもできるようになったわけですから、専門職の方々には、専門職にしか表現できない「価値」が今まで以上に求められてきます。
ではどのような「価値」が求められるでしょうか。
例えば、「より安く」「より早く」コンテンツを提供することも専門職の価値と言えるでしょうし、最近では、静止画、動画だけでなく、VRやARなども柔軟に作ることができるというのも、求められるところとしてはよく聞く内容かと思います。
しかし、私が弊社のお客様と話している内容の限りでは、ビジュアライゼーションの専門職の方々が一番求められる価値は、やはり「絵の品質」です。
最近ビジュアライゼーションをやり始めた設計者の方のお話を聞いていても「自分たちでもパースは作れるようになったけど、高品質な絵は自分では作れない。外注している。」といった話が出てきます。
こういった話からも分かるように、建築ビジュアライゼーション専門職の方々は今までより更に高い品質のコンテンツ制作が求められているというのが、業界の現状です。
そしてその需要は、BIM普及などによる設計者の業務範囲拡大に伴い、ここ数年で急激に伸びているというお話をここまでさせていただきました。
3ds Maxについて
業界の現状を共有させていただいたところで、皆様の多くの方にもご愛好いただいている弊社の3ds Maxがこの現状を受けて、これからどのようになっていこうとしているのかというお話を、ロードマップを交えてさせていただこうと思います。
まず、3ds Maxをご存じない方もいらっしゃるかと思いますので、簡単に製品の紹介もさせていただきます。
3ds Maxは、建築ビジュアライゼーション業界においては、3DCGパースが一般的になり始めた時代から、業界で最も使用されているCGツールの一つです。
主要CAD製品、BIM製品との互換性や、レンダリングエンジンとの連携力が強いこと、また、フォトリアルで高品質な絵が作れることが特徴的なツールです。
弊社の情報サイトAREA(英語)、AREA JAPAN(日本語)をご覧いただくと、初心者向けチュートリアルや、さらに使い込みたい人向けのコラム、ウェブセミナーなどの情報を配信しておりますので、よろしければ一度そちらもご確認いただければと思います。
3ds Max & UnrealEngine4で建築ビジュアライゼーション
~データフォーマットDatasmithを使ったワークフロー~
やさしい3ds Max -はじめての建築CG-(全45本 チュートリアル動画)
こちらは、Kvizにも寄稿している高橋真澄 さんのチュートリアル動画をまとめています。Kvizでも、高橋さんの講義は「わかりやすい!」と評判いただいています。
魅力的な建築CGのためのスキルとフロー
~3ds MaxとPhotoshopで作るモテパース~
こちらは中級者以上の方に。インカー・ドローイング株式会社の提供で、実際の現場フローに合わせた解説をいただいています。
3ds Max 建築ビジュアライゼーション ユーザ事例
3ds Max ロードマップ
ここからは3ds Maxロードマップについて、時間の許す限り解説していこうと思います。
なお免責事項として、今回ご紹介するロードマップに関しましては、将来必ず新機能として搭載されるという事や、今後も継続的に開発を進めるという事をお約束するものではありませんので、あらかじめご了承ください。
注:パブリックロードマップの詳細、免責事項全文に関してはこちらをご覧ください。
モントリオールに在籍する3ds Maxプロダクトチームでは、3つのテーマをもとに開発を進めています。
①RELIABLE ~信頼性のあるツールであること
②PROCEDURAL ~非破壊的で高速な制作を実現するツールであること
③SCALABLE ~個人でも大規模なチームでも使いやすいツールであること
以上の3つです。
まず、信頼性というところで、3ds Maxプロダクトチームでは、お客様の意見をより製品に反映できるよう、開発拠点にお客様を招いて意見交換会を行ったり、3ds Max Ideasというフォーラムで、お客様の意見を積極的に取り入れる活動をしています。
この3ds Max Ideasは、お客様が好きなように3ds Maxに関する意見やアイディアを書き込むことができるフォーラムで、他のお客様がそのアイディアに対して投票することができる仕組みになっています。
投票数の多いアイディアの多くは、実際に新しいバージョンの3ds Maxに新機能として搭載されたり、アイディアを元に機能改善が行われています。
現在開発中の機能としては、マシーンラーニングを取り入れたUVマッピング機能や、ビューポート設定の簡略化、テクスチャ ベイク機能改善とUI改善など、より使いやすいツールを意識した開発を行っています。
非破壊的という点に関しては、機能としては、今までより綺麗に、お客様の意図する形で処理が行える自動、半自動の新しいリトポロジ機能の開発を行うとともに、Bifrostの対応に力を入れております。
また、群衆シミュレーションのpopulateの機能改善、Bifrostを利用した炎、煙、布のシミュレータの開発も行っております。
3ds Maxは、個人でも大規模なチームでも使いやすいツールを目指し、新しいパイプラインにも対応できるよう、開発を進めています。
例えば、次の標準中間フォーマットになると期待されているようなUSDへの対応や、パートナーシップによるUnityとの連携の向上、さらに新しいワークフローをもたらすと期待されているOmniverseに対応できるよう、開発を進めています。
詳しくは、先ほどご紹介したAREA JAPANの3ds Maxパブリックロードマップのページをご覧いただければと思います。
最後になりますが、本日はメーカーの立場から、普段皆様とお話させていただいている内容や、我々が所有している情報をもとに導き出した業界の現状を、皆様と共有させていただきました。
今後も業界の現状や未来を意識しつつ、情報発信や製品開発を行っていこうと思っておりますので、皆様今後ともよろしくお願いいたします。
本日はご来場いただき誠にありがとうございました。
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