あれ、そういえばポケGOってxRだね!
でも、全く同じ世界ではないよね。ん・・・?何か少しこんがらがってきたぞ。
目次
ゲームへの技術の応用がキッカケとなり、VRやAR、MRなどの技術が一般にも広がっていきました。この動きは、これからの技術の進歩に伴い一層加速していくことが予想されます。
では、それらのVRやAR、MRを複合した新しい技術『デジタルツイン』という言葉を聞いたことがあるでしょうか?現在ではまだ一般的ではないこの技術ですが、近い将来多くの業界で活躍することになるでしょう。「デジタルツイン」にはどういう特徴があり、どういった場面で活躍する技術なのか、詳しく説明していきます。
デジタルツインとは
デジタルツインとは、読んで字のごとく「デジタルの双子」を意味しています。この双子とは、「仮想空間」と「現実世界」の2つのことを指しており、この2つの空間を相互的に作用させているものが「デジタルツイン」になります。言い換えると、現実世界の物体などの構造物を、仮想世界にそのままデジタルデータで反映させる技術となります。
これだけの説明だと、VRやARなどの技術との違いがわかりずらいですが、決定的に違うのが「現実世界」を「仮想世界」に複製しているという点です。つまり、現実世界に対して、デジタル空間上にある並行世界(パラレルワールド)ということです。
一つの都市や区域を全てデータ化するため、以前はそのデータ自体の重さが問題でした。しかし、5Gがはじまることでデータ容量の問題は解消されてきており、デジタルツインの技術の応用の幅が格段に広がったのです。
現実世界を複製することで得られるメリットを、少しだけご紹介します。
こちらのDMG森精機製作所が製作したシステムソリューションセンターは、デジタルツインで再現されたショールームになります。
複数台での自動化システムを展示し、最新の自動化システムをリアルな動きで再現している映像とサイトは必見です。
他にも、建造物を解体するシーンをイメージしてみましょう。デジタルツインの仮想世界にある建造物を先に壊すことで、倒れる方向は正確か、ガレキが飛び散らないかなど、崩れ方のシミュレーションができます。
また、宇宙空間で活躍するケースもあります。宇宙空間に送る機械を事前にデジタルツインで仮想世界に複製しておけば、宇宙で何かのトラブルがあった場合に、デジタルツインで調査を実施することで、現場に負担を掛けずにトラブルの原因を突き止めることができます。
こういった点からも、人々の安全を確保するために必要な技術ということは、分かっていただけると思います。
デジタルツインの起源
注目度が高いデジタルツインですが、その起源は、2009年にリリースされたアプリ『セカイカメラ』といわれています。このアプリではAR技術を使い、スマートフォンのカメラを通して現実の景色を見ることで、景色上に様々な文字情報を表示することができました。それから、AR技術の更なる発展より開発された『ポケモンGO』がリリースされ、一時期は社会現象になるほど有名になりました。これらの技術は、現実世界に仮想データを反映させるAR技術ですが、デジタルツインでは、その仮想データを反映させる空間すらも仮想世界になりました。
2018年、そういった現実世界と並行して存在する「リアルと変わらないバーチャル仮想空間」は、『ミラーワールド』と呼ばれていました。この言葉自体は、イェール大学のコンピュータ科学教授、デイヴィット・ガランターが提唱したものです。そして、そのミラーワールド上に存在する、現実世界の物体を複製したものが『デジタルツイン』と呼ばれていました。
今では、ミラーワールドと呼ばれていた仮想空間自体を『デジタルツイン』と呼ぶようになっています。そう考えると、デジタルツインと呼ばれている技術も、5年後には別の名称になっている可能性もゼロではありません。それくらい、技術や概念の進歩が著しい分野なのです。
利用用途
デジタルツインの用途は大きく分けて3つあります。ここではわかりやすく、内容を建築業界に絞って説明していきます。
1つ目はアーカイブとしての役割です。例えば、街をデータ化することで後世の人が過去を知ることができたり、災害が起きたときにデータを元にして復旧や修復をしやすくなります。
2つ目がリアルタイム性、つまり、今現在における活用です。今この瞬間の交通量を把握することで、自動運転車やカーナビゲーションにおいて、混雑を避けた最適なルートで移動できるようになるなどの用途が挙げられます。
3つ目が未来予測です。例えば、台風情報を受けた際に、街のインフラを守るためには何をすべきか、予測をもとにデジタルツインを用いて、より効果的で実践的な事前対策を行うことができます。時には記録媒体として、時には近未来を予測する媒体として、過去、現在、そして未来のすべての時間軸において多面的に機能を発揮していくことでしょう。
デジタルツインを活用している業界
分野を問わずに多くの業界で活躍が期待されているデジタルツインですが、すでに実践的に活用されている業界があります。今回は、「建築」「医療」「製造」の3業界に絞って紹介します。
建築業界×デジタルツイン
近年、建築業界においてのデジタルツインの注目度は上がってきています。その理由として代表的なものが、建設現場のデジタル化です。デジタル化することよって、建設機械の稼働状況や現場の気象情報、作業員の情報などを効率よく収集でき、コストダウンなどのメリットをもたらしています。
それ以外にも、不動産開発案件のエリアをそのままデジタルツインで構築する「都市デジタルツイン社会」の実装に注力している企業もあります。
昨今では、「スマートホーム」と「スマートビルディング」という概念も出てきています。
住空間とIoTを融合し、エネルギーの供給をよりデジタルで管理していく住まいをスマートホームと呼び、それをオフィスや大型商業施設といった規模感に拡大して捉えた建物群のことをスマートビルディングと呼びます。
デジタルによって、建物内の設備やエネルギーを一元管理することで、その場所にいるユーザーが最も快適と感じられる空間をコントロールすることが可能になります。
医療業界×デジタルツイン
遠隔で治療を行えるロボット技術は、すでに医療現場で活躍しています。そこにデジタルツインの考え方を合わせることで、収集したデータをもとにデジタルツインで手術を行うことができ、手術前により実践的なシミュレーションが可能になります。
医療行為が直接関わらないところでも導入が進んでいます。勤務する医師や看護師のいる場所が分かれば、人手が足りなくなっているところへの適正配置が可能です。ウェアラブル端末を使って患者の健康状態を常に収集できれば、看護師が検温や血圧測定のために病棟を回る時間は不要となります。デジタルツインを導入する結果として、医療体制、医療サービス自体の向上まで見込むことができるのは、大きな活用メリットといえます。
製造業界×デジタルツイン
デジタルツインとの相性の良さから、真っ先に実用化されたのが、製造業界での活用です。製品の開発・組み立てを、現実世界の物体をデータ化した仮想空間内で行えるので、商品等を試作するときのトライアンドエラーをデジタル上で繰り返すことができます。それによって、リスク低減・コストダウンなどが可能となりました。
また、商品の製造ラインをすべてデジタルツインでデータ化することにより、機械の稼働状況などを効率よく把握でき、適正な人員配置を行うことができます。こういった点からも、製造業ではデジタルツインのメリットを効率よく活用しているといえます。
この製造業のデジタルツイン化に、先行して取り組んでいる「NVIDIA」の例を取り上げます。NVIDIAは、デザインコラボレーションやシミュレーションの為の新たなプラットフォーム「NVIDIA OMNIVERSE」を、2019年 彼らが主催するカンファレンス「GTC」にて発表しました。さらに、2021年には同カンファレンスにて、企業向け3Dデザインコラボレーションプラットフォーム「Omniverse Enterprise」を発表しています。
参考:Omniverse Enterprise(https://www.nvidia.com/ja-jp/omniverse/)
下記のデモ動画は、BMWの現実の工場をデジタルツイン化し、地理、ソフトウェア、データの壁を越えて、Omniverse内で設計・シミュレーション・運用までを行う、ロボティクス化された未来の工場として紹介されています。
参考:NVIDIA Omniverse – Designing, Optimizing and Operating the Factory of the Future
デジタルツインの実例:「スマートシティ」との連携
デジタルツインに関わりがある実例の中で、一般的に知られているものは『スマートシティ』との連携ではないでしょうか。
スマートシティとは、スマートホーム・スマートビルディングよりも、さらにデジタルツインエリアの集合体となった都市形態を指します。
その中でも有名なプロジェクトの一つに、静岡県裾野市で開発が進んでいる『ウーブン・シティ(Woven City)』があります。ウーブン・シティとは、ロボット・AI・自動運転・MaaS・パーソナルモビリティ・スマートホームといった先端技術を人々のリアルな生活環境の中に導入できるのかを検証する実験都市のことです。
このスマートシティの開発においても、デジタルツインを活用しています。いきなり都市を建設するのではなく、実際に建設した場合に人や車の流れなどの都市機能が正常に動作するのか、仮想世界上でシミュレーションを重ねています。
東京でもスマートシティの構築例として、清水建設の不動産開発案件である豊洲6丁目プロジェクトの周辺エリアの都市デジタルツイン開発も、近年話題に昇りました。
「人の幸せ」をテーマに、BIM活用や建物・都市のスマート化に取り組む建設会社の知見と建設ICT企業の先進的なテクノロジーを融合し、国内で初めてオートデスクのクラウドサービスを活用した「都市デジタルツインのデータプラットフォーム」を整備する計画を、発表しています。
清水建設は、そのプラットフォーム上に建物・インフラのBIM・CIMモデル、広域地形モデル、シミュレーションデータを統合した豊洲6丁目プロジェクトのサイバー空間を構築し、人流・物流・交通・防災機能の最適化を図る『課題解決型』のスマートシティ事業を推進しています。
こうした「人」を中心とした都市機能の活性化がコンセプトになるスマートタウンの構築は、近い将来、建築ビジュアライゼーション業界において中心となっていくでしょう。
デジタルツインに紐づく「BIM」とは
建築ビジュアライゼーションにおけるデジタルツインに、切り離せない大切な技術が『BIM』です。
BIMとは、「Building Information Modeling(ビルディング インフォメーション モデリング)」の略のことです。実際に建設する前にコンピュータ上に現実と同じ建物の立体モデルを構築することで、建築の無駄を省くことができます。
2次元の図面を作成した後に3次元の形状を組み立てる従来の3D CADでは、3次元化した後に修正が入った場合に2次元の図面を修正する必要があったため、膨大な工数をかけなければいけませんでした。一方で、BIMは最初から3次元でシミュレーションの設計をするため、3次元から2次元の図面を切り出すことも可能です。BIMを部分的に修正した場合でも、修正された箇所はすべてリアルタイムで反映されるため、余計な工数を削減することができます。
このBIMの技術を、デジタルツインによって再現された仮想世界に用いることで、時間の概念が追加され、4次元的にデータを収集することができます。デジタルツイン上の人の流れや気候状況などのデータが反映されることで、BIMのメリットをより多角的に4Dシミュレーションへ活用させることができるのです。
デジタルツインの未来
BIMやVR、ARなどの技術との複合性が高いデジタルツインは、ビジネス面においても大きな影響をもたらすと予想されています。日本でもデジタルツインを現実のビジネスに変えようと、2021年7月KPMGコンサルティング株式会社が、令和2年度コンテンツ海外展開促進事業(仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業)の報告書を開示しました。
中身は、仮想空間を公共スペースとして整備していくための流れをまとめた仕様書になっており、今まできちんと定義されていなかった仮想世界の法的整備について触れています。デジタルツインという仮想世界が現実世界と混ざり合うのも、そう遠くない未来なのかもしれません。
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