2021年10月、Facebook社が社名を「META」に変更しました。VRやMRといった技術で実現する次世代のプラットフォームや、新しいインターネットの姿である「メタバース(仮想空間)」に注力していく姿勢を世間に知らしめたといえます。有名企業が社名を変更してまで、新しいプラットフォームにフォーカスしていくというニュースは、業界の枠を超えて話題になりました。
では、その「メタバース」がどのような技術で、これからどの業界でどのように発展をしていくのか、各事例を含めて見ていきましょう。
目次
メタバースとは
メタバースとは、インターネット内の仮想世界という意味で、メタ(超越した)とユニバース(宇宙)を組み合わせた造語です。メタバースという言葉の起源は、1992年出版の小説、『スノウ・クラッシュ』の作中に登場するインターネット上の仮想世界とされています。当時は、物語や目的、敵などが用意されたゲームとは違い、仮想世界の中で現実世界のような自由な交流ができる空間と定義されていました。その後、時を経て、現在ではオンラインで遊ばれるゲーム空間を意味する言葉に解釈が変わりました。
そんな「メタバース=ゲーム空間」という認識が一般化しているなかで、かつての定義に戻りつつあります。つまり、「メタバース=現実世界に並行して存在する仮想世界」となる時代が近づいてきているのです。
メタバースの原点『セカンドライフ』
『セカンドライフ』は2003年にLinden Lab(リンデンラボ、現在:Linden Reserch)社がスタートした、メタバースを活用したサービスです。オンライン上の仮想世界での交流を目的としたサービスで、物品の売買がゲーム内の通貨で行えることが特徴的でした。カフェを営業して他ユーザーと交流したり、自作コンテンツを販売したり、自分の演奏やダンス、アートを発表したりと、自分の特技を生かした新しいビジネスを仮想世界内で始めることができました。セカンドライフ内で稼いだ通貨を現実の通貨に換金することもでき、まさに、現実世界に並行する仮想世界でした。
2008年頃、ゲーム内の土地を高額で転売できることなどをきっかけに、世界的なブームとなりましたが、サーバー環境など処理速度が追いつかないことなどを主な原因として、ブームは静かに去っていきました。現在でもサービスは継続中していますが、かつてのような盛り上がりは、今のところ見受けられておりません。
メタバースの活用事例
現在、メタバースが活用されている「ゲーム」と「仮想世界」の分野、それぞれ2つの事例を紹介します。
メタバース×ゲーム
ーFortnite
『Fortnite(フォートナイト)』は、2017年からEpicGames社により配信されている、第三者視点(TPS)のシューティングゲームです。ポップなビジュアルと対応プラットフォームの多さもあって、バトルロワイヤルゲームとして世界的に人気を集めています。世界大会の優勝賞金が1億円を超えるなど、多くの点で注目を集めました。
2018年と2020年に新しく追加された2つの新しいモードは、Fortniteをシューティングゲームとしてだけではなく、メタバースへと発展させることとなりました。プレイヤーが1つの島で自由に建造物を作れる「クリエイティブモード」と、他のオンラインユーザーと戦う代わりに仮想空間でライブや映画鑑賞などを楽しめる「パーティロイヤルモード」です。これら2つのモードが出たことで、単なるバトルロイヤルシューティングゲームの枠を超え、メタバースを体験できるプラットフォームとなりました。
ーあつまれ どうぶつの森
『あつまれ どうぶつの森(以下「あつ森」)』は2020年にNintendo Swithで発売された、のんびりとした世界観を楽しむゲームです。新型コロナウィルスによる巣ごもり需要の影響もあり、Nintendo Swithのみの販売にも関わらず、2021年3月には全世界での販売本数が3,200万本を超えています。
あつ森では、プレイヤーの暮らす島を地形からデザインすることが出来ます。「夢番地」と呼ばれる機能を使うことで、ゲーム内のフレンドではない他のプレイヤーが作った島を訪れることができ、企業による利用も増えました。2020年には、ジョー・バイデン候補が、アメリカ大統領選の選挙活動であつ森を利用したことでも話題となりました。
また、注目されたのがプレイヤー自身で洋服や看板などデザインすることができる、「マイデザイン」という機能です。これは個人だけにとどまらず、世界的アパレル企業の『Valentino(ヴァレンティノ)』や『Marc Jacobs(マーク・ジェイコブス)』などが、「マイデザイン」で自社ブランドのデザインを公開しました。ゲーム内での経済活動自体こそありませんでしたが、これらのことからも、企業のメタバースへの注目度が高いことがうかがえました。
メタバース×仮想世界
ーREALITY
『REALITY』は、2018年にグリーの子会社REALITYがスタートしたスマートフォン向けバーチャルライブ配信アプリです。YouTubeで話題になった「VTuber」と同じような感覚で、自分で設定したアバターを使い、顔出しをせずに配信ができるアプリとして注目を集めています。
2021年以降、本格的に海外展開に注力したこともあり、今ではアクティブユーザーの約90%が海外のユーザーになり、そのうちの約40%が自ら配信を行っています。アニメ調のアバターでライブ配信をするという行為が、世界でも通用することを証明しました。
ライブ配信だけにとどまらず、「ワールド」という新機能でメタバース(仮想世界)を自由に歩き回れるサービスを開始しました。REALITYが作るメタバースは、ユーザー自身がオリジナル商品の作成や販売を仮想世界で行うことで、現実世界の収入を得られる商圏・経済を生むことを目指しています。
ーREALITY XR cloud
『REALITY XR cloud』も、グリー子会社REALITYが提供しているサービスです。BtoCの「REALITY」とは違い、「REALITY XR cloud」は企業向けのBtoBサービスになっています。仮想空間内で行われるコンサート、展示会、上映会などを実現するためのクラウドソリューションです。これにより、リアルでしか行えなかったイベントが、オンラインでも展開可能になりました。自分でカスタムしたアバターを使うことができるため、新しい自己表現の場としても注目されています。
また、モーションキャプチャーと3DVRを組み合わせたりすることで、ユーザー自身がその場所にいるような「実在感」を、より感じられるようになっていくことも期待されています。
メタバースを活用していく分野
事例でも説明しましたが、メタバースはもはやゲームだけの技術ではありません。多くの分野で注目を集めており、既にメタバースに繋がる技術が試験的に導入されている業界もあります。では、「教育」と「不動産・建築」の2つの事例について見ていきましょう。
教育分野
各業界において、あらゆる研修での活躍が注目されています。現在、内部構造が精密な製造業において、ARなどの3DCG技術をマニュアルとして使った研修が行われています。従来、飛行機のメンテナンスなどを行っている技術者は、マニュアルで知識ベースに覚えないといけませんでした。しかし、ARを活用することで、実際のパーツの前でリアルタイムにマニュアルを確認しながら、より実践的に研修を受けることができます。
企業の新人教育や社内教育でも同様のことがいえるため、今後は研修の幅が広がっていくことでしょう。人材の価値が高まっている昨今、ITに全く関係しない企業でも、メタバースは無視できないものになるかもしれません。
不動産・建築分野
不動産分野では、遠隔地からでも実際に物件を内見しているような体験ができる、「VR内見サービス」が注目されています。入居希望者がVRゴーグルを装着することで、部屋の様子や窓からの景色などを自分の視点で確認できます。平面の間取りでは伝わりづらかったサイズ感を、よりリアルに体感することができます。
建築分野においても、メタバースにおけるBIMの活用が期待されています。BIMは、コンピュータ上に作成した3DCGのデジタルモデルに、コストや仕上げ、管理情報などの属性データを3DCGの建築物のデータ上に反映させる技術です(詳しくは「BIMとは」の記事も合わせてお読みください)。
BIMは多くの属性データを保有しているため、どのようにメタバースに取り込んでいくのかなどの導入への課題があります。しかし、将来的にはBIMなどのそれぞれの独立した仮想空間のプラットフォームは、メタバースによって1つの世界に収束していくことが予想されます。そのような未来も見据えたうえで、課題解決を考えていく必要があります。
センスオブプレゼンス(実在感)という概念
2020年以降、新型コロナウイルスの影響で、仕事の打ち合わせや飲み会などの様々なものがオンラインになりました。それにより、オンラインでのやり取りでも問題ないものが明確になりましたが、同時に、オンラインでは伝わりきらないものも明確になりました。それが「センスオブプレゼンス(実在感)」です。
WEB会議アプリケーション、「Zoom」でのオンライン会議を例に話をしていきます。オンラインだと、どれだけ通信速度が速くても多少のラグは起きてしまいます。会話している時にいきなり無言になったり、言葉が重なったりしまうことを今までに経験したことがある方は多いのではないでしょうか。また、ずっとお互いを映像を見ているわけではないので、表情の変化やボディランゲージなどのノンバーバルコミュニケーションを、リアルタイムにキャッチすることができません。問題なく会話はできますが、声にしない細かい部分が伝わりづらいと感じたことがある方は多いと思います。これらのことが原因で、センスオブプレゼンス(実在感)を得ることが困難でした。
その点メタバースのアバターは、ユーザーが喋っている内容にあわせて瞬きや表情をリアルに表現しています。これが、現実のノンバーバル コミュニケーションを再現しており、それによって仮想空間を現実に近づける要素、つまり「センスオブプレゼンス」を得ることができるです。
引用元:ABEMA 変わる報道番組#アベプラ Youtubeより『【公式】
【メタバース】「生活してるだけ」仕事も食事も睡眠もVRゴーグルを被ったまま?週100時間もダイブする住民の日常は?バーチャル空間と人格』
メタバースの今後(まとめ)
俗にいうweb2.0時代は、「情報のインターネット」の時代でした。簡単にコピペができる情報には価値がなく、仮想空間でお金を発生させるためにはリアルとの接点が必要不可欠でした。しかし、次に来るweb3.0時代は、「価値のインターネット」と呼ばれています。仮想空間上に各業界のサービスができ、ユーザーが現実ではなく仮想空間内で使うものを求めるようになるため、リアルとの接点なしに経済活動ができるようになるでしょう。
もちろん、メタバース化が進むうえで直面する問題もあります。企業は、どのようにリアルのビジネスをオンラインに持っていくのかを検討しなければなりません。現実世界と仮想世界でのビジネスを並行して考える必要が、目の前の現実課題として見えてきています。